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小児炎症性腸疾患(IBD)の発症に関与する新たな遺伝子変異「TRAF3遺伝子変異」を同定

国立成育医療研究センターは4月10日、反復性中耳炎、耳下腺炎やアトピー性皮膚炎、重度の口唇炎・口内炎、無菌性骨髄炎を伴った重症の小児期発症炎症性腸疾患(IBD)の患者さんにおいて、新たなTRAF3遺伝子変異(p.Pro487Leufs*8)を同定し、この単一遺伝子異常が炎症性腸疾患(IBD)発症の原因になる可能性を明らかにしたと発表しました。

炎症性腸疾患(IBD)は、主にクローン病(指定難病96、CD)と潰瘍性大腸炎(指定難病97、UC)に分類される、消化管の慢性的な炎症を特徴とする疾患です。小児期に炎症性腸疾患(IBD)を発症する患者さんは全体の2~3割を占め、その数は世界的に増加傾向にあります。炎症性腸疾患(IBD)は、一般的に環境要因と遺伝要因が複雑に関与して発症すると考えられていますが、近年、若年発症の炎症性腸疾患(IBD)患者さんの中には、単一遺伝子の変異によって免疫機能に異常が生じ、発症するケースが複数報告されています。

これまで、国立成育医療研究センターでは、遺伝子異常による炎症性腸疾患(IBD)の病態解明に注力してきました。TRAF3は、体内で過剰な炎症を抑制する機能を持つタンパク質であり、2022年には自己免疫疾患や免疫不全を引き起こす遺伝性疾患の原因遺伝子として報告されていましたが、炎症性腸疾患(IBD)との関連性はこれまで不明でした。

今回の研究では、TRAF3変異の症状として報告されている反復性中耳炎、耳下腺炎、アトピー性皮膚炎に加え、重度の口唇炎・口内炎、無菌性骨髄炎を合併した小児炎症性腸疾患(IBD)患者さん1名に対し、全エクソーム解析と呼ばれる遺伝子解析を実施。その結果、この患者さんから、これまで報告されていない新たなTRAF3遺伝子の変異(p.Pro487Leufs*8)が同定されました。この変異により、TRAF3タンパク質の産生量が減少し、末梢血中のTfh細胞(T follicular helper cell)と呼ばれる免疫細胞の増加を伴う、異常な免疫活性が確認されました。Tfh細胞は、免疫グロブリン産生に関わるB細胞の活性化を助ける役割を持つ細胞です。

TRAF3遺伝子変異を持つ患者さんは、炎症性腸疾患(IBD)に対する初期治療として用いられるチオプリン製剤や抗TNFα抗体製剤による治療効果が乏しく、炎症の再燃を繰り返していました。しかし、Tfh細胞に作用する抗インターロイキン(IL)-12/23p40抗体製剤を用いた治療を行ったところ、炎症性腸疾患(IBD)は持続的に臨床的寛解に至り、末梢血中のTfh細胞数を含む免疫系の異常も正常化しました。

以上の研究成果より、これまで炎症性腸疾患(IBD)との関連が明らかでなかったTRAF3遺伝子の新たな変異が、小児における重症の炎症性腸疾患(IBD)発症に関与する可能性が示唆されました。また、従来の治療法で効果が得られなかった患者さんに対して、遺伝子変異に基づいた分子標的治療薬である抗IL-12/23p40抗体製剤が有効であったことは、今後の炎症性腸疾患(IBD)の個別化医療を進める上で重要な知見であると考えられます。

なお、同研究の成果は、「Intestinal Research」に4月4日付で掲載されました。

出典
国立成育医療研究センター プレスリリース

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