神経線維腫症2型(NF2)に対する世界初の免疫療法、第I/II相臨床試験で安全性・有効性を確認、医師主導治験を開始予定
慶應義塾大学は6月12日、神経線維腫症2型(NF2)に対する世界初の免疫療法の第I/II相臨床試験が終了し、ペプチドワクチンが予定通り投与された16例の解析を行い、安全性、有効性について有望な感触を得たと発表しました。
神経線維腫症2型(指定難病34)は、内耳から脳へ情報を伝える前庭神経以外にも、無数に神経鞘腫を生じ、髄膜腫や上衣腫等の腫瘍も併発する遺伝性疾患です。10~20歳代で発症することが多く、若年より聴力が障害され、進行が早く10年生存率は67%と報告されています。手術では神経損傷の可能性が高いため、多発腫瘍に対して積極的に手術を行うことはできません。放射線治療は一定の成績を示していますが、大型の腫瘍には適応されず、多発腫瘍を制御することは困難で、悪性転化のリスクも報告されているため、新たな治療法の開発が求められています。
近年、神経線維腫症2型(NF2)の神経鞘腫は血管新生因子である血管内皮増殖因子(VEGF)-Aを高発現しており、その分子標的薬であるベバシズマブの有効性が示されました。
研究グループは、神経線維腫症2型(NF2)の神経鞘腫では、血管内皮細胞のみならず腫瘍細胞にVEGF受容体(VEGFR)が高発現していることから、VEGF受容体(VEGFR)を標的とするペプチドワクチン2/3の開発をおこないました。このペプチドワクチンによって誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)は、VEGF受容体(VEGFR)を発現している標的細胞を破壊し、体内で細胞傷害性T細胞(CTL)が持続するため、長期効果が期待される治療法です。
今回、研究グループは、探索的臨床試験「進行性神経鞘腫を有するNF2に対するVEGFR1/2ペプチドワクチンの第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験」を実施しました。その結果、ペプチドワクチン投与完了した16例は、本ワクチンに関連する重篤な合併症の発症はなく、VEGF受容体(VEGFR)特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)が良好に誘導され、多くの患者さんで腫瘍増大が制御されました。
今後、プラセボ群を対照とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験を行う予定です。VEGF受容体(VEGFR)ペプチドワクチンは、特定のヒト白血球抗原(HLA)の型に対して効力を発揮するため、医師主導治験では、まずHLAA*2402型の患者さんに投与を行う予定としています。
難治性良性腫瘍に対するVEGF受容体(VEGFR)ペプチドワクチンの有効性を示すことができれば、既存の治療概念を変えることも期待されます。神経線維腫症2型(NF2)は希少疾患であるため、治療薬開発に焦点が当てられる機会は多くありません。
慶應義塾大学はプレスリリースにて、「難治性神経線維腫症2型(NF2)の患者さんに、一刻も早く新しい治療薬を届けられるよう、今後も一層尽力していきます」と述べています。
なお、同研究の成果は、米科学誌「Journal of Clinical Oncology」オンライン版に5月23日付で掲載されました。