神経細胞内におけるタンパク質分解の過程を可視化したモデルマウスを作成
順天堂大学大学院の内山安男特任教授らの研究グループは2020年6月15日、脳神経細胞内のオートファジーを蛍光シグナルとして測定可能なモデルマウスの開発に成功したことを発表しました。オートファジーは、個々の細胞が自分自身の中にある不要なタンパク質を分解し排除する仕組みの一種です。これまでに、オートファジーが老化の過程およびALSやパーキンソン病などの神経変性疾患に関与していることがわかっています。神経変性疾患におけるオートファジーの機能が解明されることで新規治療薬の開発にも繋がると期待されています。
細胞内のタンパク質を分解する仕組み
オートファジーは日本語で自食作用とも呼ばれ、それぞれの細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解しリサイクルする仕組みを指します。オートファジー機能が低下することは、パーキンソン病やバッテン病などの神経変性疾患と関わりがあることが知られています。また、老化によってオートファジー機能が低下することも知られており、アルツハイマー病とも関わっていることが明らかになっています。マウスに対し人工的にオートファジー機能を低下させると、神経変性疾患に似た症状を示します。脳神経におけるオートファジー機能を評価することは、これらの疾患に対する理解を深めるために非常に重要なプロセスです。そこで研究グループは、オートファジーを長期間モニタリングできるようなモデルマウスの作成を試みました。
オートファジーを観察可能なモデルマウスの作成
オートファジーが起こると、目的となるタンパク質を分解するための構造(オートファゴソーム)が、タンパク質を取り囲むように形成されます。オートファゴソームは、細胞内に存在するリソソームと結合することでオートリソソームとなり、その中身を分解します。研究グループは、オートファゴソームに結合すると黄色の蛍光を、オートリソソームに結合すると赤色の蛍光を発する目印となる蛍光プローブを作成しました。この蛍光プローブを遺伝子導入したマウスは、普段の行動や生殖機能、生存についてコントロールマウスとの違いがみられず24カ月程度(60歳のヒトに相当)まで生存しています。
モデルマウスを活用した評価の可能性
遺伝子導入したマウスに対し人工的にオートファジーを起こすと、肝臓、腎臓、膵臓で蛍光が見られました。脳内を観察すると、大脳皮質、海馬CA1領域、歯状回、小脳プルキンエ層、小脳核、脊髄において蛍光が見られました。さらに、小脳のプルキンエ細胞を詳細に解析すると、電子顕微鏡で観察されたオートファゴソームおよびオートリソソームの増加と蛍光の観察により得られるオートファゴソームおよびオートリソソームの増加が極めて良い相関関係にありました。このことから、今回遺伝子導入により作成されたモデルマウスを用いることで脳神経細胞内のオートファジー機能が評価可能であると確認されました。
出典元
順天堂大学プレスリリース