ヒトiPS細胞で特発性肺線維症の病態再現に成功、新たな治療標的を特定
iPS細胞研究所(CiRA)は2月13日、ヒトiPS細胞技術とマルチオミクス解析を駆使し、特発性肺線維症(IPF)の新たな治療標的を明らかにしたと発表しました。
特発性肺線維症(IPF)は、肺胞の壁が厚く硬くなる「線維化」が進行し、酸素の取り込みが困難になる疾患です。原因は不明で、症状の進行を遅らせる薬はあるものの、完全に止めたり失われた機能を回復させたりする根本的な治療法は確立されていません。近年の研究では、患者さんの肺において、組織の修復を担う「Ⅱ型肺胞上皮細胞」が正常に分化できず、「肺胞移行細胞状態(ATCS)」と呼ばれる異常な状態で停滞し、修復不全に陥っていることが分かっていました。しかし、この状態が線維化の直接的な原因なのか、あるいは結果なのかについては議論が分かれていました。
今回、研究グループは、ヒトiPS細胞から作製した肺胞オルガノイド(ミニ臓器)と、組織を支える線維芽細胞を共に培養するモデルを構築しました。このモデルに薬剤を加えて損傷を与えることで、ヒトの肺内部で生じるⅡ型肺胞上皮細胞がATCSへと変化し、周囲の組織が硬く収縮するという病態を試験管内で再現することに成功しました。これにより、ATCSが線維化の進行に直接関与していることが示されました。

さらに、この病態モデルを用いて264種類の化合物を対象としたスクリーニングを実施し、線維化を抑制する効果を持つ薬剤の探索が行われました。その結果、「p300/CBP阻害剤」と呼ばれる薬剤が、肺胞オルガノイドの収縮を有意に抑制することが発見されました。詳細な解析により、p300というタンパク質が特定の転写因子と協力してATCSへの異常な変化を制御していることが判明し、この阻害剤がそのプロセスを直接的に抑えることで、周囲の線維芽細胞の活性化も防ぐメカニズムが明らかになりました。

以上の研究成果より、細胞の分化異常を正常化させて病態をリセットするという、従来の対症療法とは異なる新しい治療戦略の可能性が示されました。この結果から、より効果的で安全な治療薬の開発につながり、患者さんのQOL(生活の質)向上と根治の実現を目指すことが期待されます。
なお、同研究の成果は、「Nature Communications」に2月12日付で掲載されました。
