脆弱X症候群のマーモセットモデルを開発、ヒトに近いモデル動物で治療法開発の加速に期待
東京大学は、FMR1 遺伝子に変異を導入したマーモセットが脆弱 X 症候群の非ヒト霊長類モデルとして有用であることを明らかにしたと発表しました。
脆弱X症候群(指定難病206)は、X染色体上のFMR1遺伝子の働きが失われることにより発症すると考えられています。脆弱X症候群の患者さんには多動、てんかん、言語発達の遅れ、社会性の障害など、多様な症状が現れることが知られ、現在までに有効な治療法は確立されていません。これまで、この疾患の研究にはFmr1遺伝子を欠損させたマウスやラットが広く用いられてきましたが、げっ歯類ではヒト特有の複雑な脳機能や行動の再現に限界がありました。
今回、研究グループは、ヒトに近い高次な社会性や認知機能を持つ小型の霊長類であるコモンマーモセットに着目しました。CRISPR/Cas9システムというゲノム編集技術を用いてFMR1遺伝子に変異を導入した「FMR1変異マーモセット」を作製し、その有用性を明らかにしました。
この研究で、FMR1遺伝子に変異が導入され、遺伝子産物がほとんど認められないファウンダー個体では、多動や自発性てんかん発作が確認されました。このてんかん発作は新生児期の致死を引き起こしましたが、代謝型グルタミン酸受容体5型をコードするGRM5遺伝子に変異を導入したFMR1/GRM5二重変異体では、この致死が救われることが明らかになりました。この結果は、mGluR5シグナルの過剰な活性化がFMR1変異ファウンダー個体の症状に寄与していることを示唆しています。


さらに、ファウンダー個体と野生型を交配して作られたF1世代のFMR1ヘテロマーモセットでは、新生児期から若年期にかけて、てんかん発作、発声発達や社会的嗜好性の変化、聴覚情報処理の異常、微細運動能力の低下といった、ヒト患者さんと類似した行動・生理学的特徴が確認されています。


以上の研究成果より、FMR1変異マーモセットは脆弱X症候群の症状を高い再現性で示す、有用なモデル動物であることが示されました。この新しいモデル動物は、今後、疾患の病態解明から新たな治療薬の開発まで、幅広い分野での活用が期待されています。
