年1回投与の脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬salanersenの臨床試験の、トップライン結果を発表
米バイオジェン社は6月25日、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療を目的としたアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)であるsalanersen(BIIB115/ION306)の第I相臨床試験におけるトップライン結果を発表しました。
脊髄性筋萎縮症(指定難病3、SMA)は、脊髄および下部脳幹の運動ニューロンが減少・消失することにより、進行性の筋萎縮と筋力低下を引き起こす希少な遺伝性神経筋疾患です。出生児約1万人に1人の割合で発症するとされており、乳児における遺伝性死亡の主要な原因の一つとされています。
salanersenは、既存薬スピンラザ(一般名:ヌシネルセン)と同様の作用機序を持つASOですが、年1回の投与で高い治療効果が期待されます。今回の第I相中間解析は、遺伝子治療歴のある脊髄性筋萎縮症(SMA)患者さんを対象に実施され、サラナーセン投与後に神経変性の進行が大幅に抑制され、運動機能の改善が臨床的に意義のあるレベルで確認されました。特に、神経変性の指標であるニューロフィラメント軽鎖(NfL)のベースライン値が高かった参加者において、投与開始後6か月でNfL濃度が平均70%減少し、その効果は1年間持続しました。
中間解析時点で追跡調査期間が1年以上であった被験者のサブグループ(salanersen 40 mgを投与された2歳~12歳の8例)について、探索的な臨床結果のデータが評価されました。被験者の半数は、歩く、這う、立つ、座るなど、自力で出来ない、もしくは介助が必要でしたが、新たなWHO運動マイルストーンを達成しました。さらに、被験者はベースラインから1年後までに運動機能の臨床的改善が認められました。
第I相試験から得られた累積データによると、salanersenは40 mgおよび80 mgのいずれの用量においても全般的に良好な安全性プロファイルを示しました。軽度から中等度の有害事象は認められましたが、主な有害事象は発熱および上気道感染症でした。
ミラノNeMO臨床センターの臨床・科学ディレクターであり、ミラノ大学神経学教授、salanersen第I相試験の主任研究者でもあるValeria A. Sansone医学博士・博士(Ph.D.)はプレスリリースにて、「臨床試験に参加した小児がすでに遺伝子治療を受けていたことを踏まえると、今回得られたデータの中で、ニューロフィラメントの変化とWHOの発達マイルストーンの達成は、特に本試験の結果を表す指標だと感じています。たとえば、1歳で遺伝子治療を受けたものの、5歳になっても支えなしでは座れなかったお子さんが、salanersenの投与開始からわずか3か月で自力で座れるようになったという事例は、予想外で驚くべきものでした。今回の結果は比較的少人数のコホートから得られた初期データではありますが、今後実施予定の第III相試験において、これまで治療を受けた方々だけでなく、未治療の方々に対してもsalanersenがどのような効果を示すのかをさらに解明していくことを楽しみにしています」と述べています。
また、バイオジェン神経筋開発部門責任者のステファニー・フラデッテ氏(Pharm.D.)は、「過去10年間のSMA領域において、治療法は目覚ましい進歩を遂げましたが、依然として重大なアンメットニーズが存在しています。salanersenは、そうした課題に取り組むためのバイオジェンの継続的な取り組みを示す次なるステップです。現在得られているデータに勇気づけられており、salanersenをできるだけ早く次の開発段階へと進めることに期待を寄せています。本試験にご参加いただいた患者さんとそのご家族、治験責任医師、そして医療施設のスタッフの皆さまに心より感謝申し上げます」と述べています。
なお、今回のデータは、6月25日カリフォルニア州アナハイムで開催された「SMA Research & Clinical Care Meeting」(主催、Cure SMA)にて発表されました。