アデノ随伴ウイルスベクターを搭載した新規ナノマシンで遺伝子治療の大きな課題を世界で初めて克服
川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)と東京科学大学は2月26日、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を搭載した新規スマートナノマシンを用いることで、AAVベクターを用いた遺伝子治療の大きな課題である「中和抗体の産生」および「肝毒性」を世界で初めて克服できたことをマウスで実証したと発表しました。
アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)は、様々な細胞種に遺伝子導入が可能であり、長期的に遺伝子発現が継続することから、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、血友病などの難治性疾患に対して臨床応用されています。しかし、AAVに対する中和抗体を有する患者さんでは、十分な遺伝子導入効率が得られないことが知られていて、投与可能な患者さんおよび投与回数が制限されています。
今回、研究チームは、ワインやお茶の成分であるタンニン酸にフェニルボロン酸からなる精密合成高分子を組み合わせ、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を搭載したナノマシンを開発。これを用いることで、全身投与したAAVセロタイプ9型(AAV9)はAAV中和抗体存在下のマウスにおいて、脳および肝臓での遺伝子導入効率を約50-60%と、AAV9単独投与(5-15%)よりも活性低下を顕著に抑えることに成功しました。さらに、このナノマシンは、肝臓への影響を10%以下に抑えることにも成功しており、高用量投与したAAV9の肝毒性も抑制することに成功しています。
以上の研究成果より、AAV搭載ナノマシンを用いることにより、中枢神経系への遺伝子導入に関してAAV単体と同等の効率を示しており、十分な遺伝子治療効果が得られることが期待されるといいます。また、AAVに対する中和抗体を有する患者さんでは投与回数が制限されていましたが、このナノマシンを用いることで、脳への遺伝子導入を維持しつつ、AAVの高用量投与による肝毒性を抑制できることから、投与量もさらに増やすことができるようになり、治療効果向上が期待されます。
なお、同研究の成果は、「ACS Nano」オンライン版に2月4日付で掲載されました。