1. HOME
  2. 難病・希少疾患ニュース
  3. 大腸に小腸の消化機能を持たせる移植法の開発

大腸に小腸の消化機能を持たせる移植法の開発

慶応義塾大学を中心とする研究グループは上皮をはがした大腸にオルガノイドより培養した小腸上皮を移植し、小腸に特有の消化吸収や蠕動運動などの機能を備えた大腸を作製する技術を開発したと発表しました。短腸症候群などの小腸疾患に対する新たな治療法開発にも繋がると期待されます。

小腸は絨毛など特有の構造を持ち、消化吸収など生命維持に重要な役割を持つ臓器です。絨毛の間には陰窩と呼ばれるくぼみ部があり、陰窩の基底にある腸管上皮幹細胞により小腸上皮は体内でも最も早い新陳代謝が可能です。疾患などの影響で小腸を大きく切除すると消化吸収能力が長期的に障害される短腸症候群を発症することがあります。重度の場合には静脈から栄養を注入する方法をとりますが、生活の質(QOL)への影響が大きく、また、感染症などの恐れもあります。これまでに根本的な治療法はなく、健康な人からの小腸移植が行われてきました。しかし小腸はほかの臓器と比較して拒絶反応が強く、移植片の生着率が低いことが知られます。本研究グループは過去に、腸上皮に由来する腸管上皮幹細胞をもとにオルガノイドを作製し永続的に培養する技術を確立しました。オルガノイドを用いた技術は腸細胞をそのまま培養する技術であり移植細胞としての活用も期待されています。しかしヒトの小腸上皮細胞から小腸そのものを作出することは困難であることから、大腸上皮を培養した小腸上皮に置き換える技術の確立を目指し本研究が行われました。

本研究グループはまず、マウスの大腸上皮を剥がしてヒトの小腸上皮を移植しました。その結果、移植された小腸上皮は小腸に特有のタンパク質を発現していました。さらに消化吸収に重要な絨毛の形成も確認されました。さらに、脂質吸収にかかわる乳び管が大腸でも形成されていたことから小腸上皮を移植した大腸で栄養を吸収し体内に運べることが示唆されました。次に、ラットを用いて短腸症候群の治療可能性を検証しました。手術によってラットの小腸を摘出し短腸症候群を再現したラットに対し回腸末端部に小腸オルガノイドおよび大腸オルガノイドを移植し、それぞれ比較検討を行いました。観察の結果、小腸オルガノイド移植群では生存期間が延長したのに対し、大腸オルガノイド移植群では生存期間の延長が見られませんでした。小腸オルガノイド移植群はラットでの実験と同様に乳び管や血管の形成、蠕動運動、脂質や糖の吸収が認められました。 こうした結果から自分自身の小腸オルガノイドを用いた拒絶反応のない治療法の開発にも繋がると期待されます。

出典元
慶応義塾大学医学部 プレスリリース

関連記事