進行性骨化性線維異形成症(FOP)の間葉系間質細胞の増殖にBMP-9が関与
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の共同研究グループは12月4日、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の異所性骨化の初期段階でみられる間葉系間質細胞の増殖にBMP-9が関わることを明らかになったと発表しました。
進行性骨化性線維異形成症(指定難病272、FOP)は、筋肉や腱、靭帯などに徐々に骨ができてしまう難治性遺伝性疾患のひとつです。筋肉などの組織中に存在する間葉系間質細胞が刺激を受けて増殖し(フレアアップ)、軟骨細胞への変化を経て、最終的に骨組織を形成する「異所性骨化」が進行することで、手足の動く範囲が狭くなったり、背中が変形したりします。これまでの研究により、骨形成に関わるBMPの受容体の一つであるACVR1遺伝子に突然変異が生じ、変異したACVR1が通常と異なる働きをすることで進行性骨化性線維異形成症(FOP)の症状が引き起こされることがわかっています。
今回、研究グループは、TGF-βスーパーファミリーと呼ばれるリガンド群が2種類の間葉系間質細胞を増殖させる作用を比較。そのした結果、多くのリガンドは、どちらも増殖させるか、どちらにも増殖作用を示さないかの二択だったでした。一方で、BMP-9はresFOP-iMSCに対するFOP-iMSCの増殖促進作用が大きいことがわかりました。
次に、薬剤を投与することでACVR1の変異を誘導できる進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスを用いて、生体でもBMP-9がフレアアップで見られる細胞増殖に作用するかを検討。その結果、ACVR1変異を誘導した進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスにおいて、BMP-9を投与した部位に腫れが生じ、間葉系間質細胞が有意に増殖することを確認しました。
骨格筋の壊死を引き起こす毒性をもつカルディオトキシン(CTX)を用いて進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスの筋肉に損傷を与えたとき、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の異所性骨化においても、実際に生体でBMP-9が生産されるかどうかを調査。その結果、カルディオトキシン投与後、1日目から14日目にかけて、徐々に血清中のBMP-9量が上昇し、患部の組織でもBMP-9を発現した細胞がみられました。これらの結果により、フレアアップから異所性骨化へと進行する過程において、BMP-9が持続的に組織中に存在し、間葉系間質細胞の増殖を促す一方、BMP-9を産生する細胞は経時的に変化することがを示されたといしています。
さらに、BMP-9を欠失させたFOPモデルマウスを作製し、BMP-9が存在しない場合に異所性骨が形成されるかを調べたところ、ACVR1の変異を誘導し、カルディオトキシンを投与したBMP-9欠損マウスにおいて、BMP-9をもつ同様の進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスと比較して、異所性骨の形成が抑制されることが判明しました。これにより、進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスにカルディオトキシン投与後、BMP-9の活性を抑えることのできる抗体を投与することで、初期の病変形成が抑えられることがわかりました。
最後に、BMP-9によりFOP-iMSCおよび進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスにおいて誘導される細胞増殖のメカニズムを調べた結果、ACVR1変異をもつ間葉系間質細胞およびマウスにおいて、TGF-βシグナル系が亢進していることが明らかになりました。さらなる解析の結果、BMP-9が受容体である変異したFOP原因遺伝子ACVR1を介して、通常ではみられないシグナル伝達経路の活性化を起こすことが明らかになりました。
以上の研究成果より、進行性骨化性線維異形成症(FOP)患者さんiPS細胞由来間葉系幹細胞や進行性骨化性線維異形成症(FOP)モデルマウスなどの疾患モデルを活用し、進行性骨化性線維異形成症(FOP)における異所性骨化の早期であるフレアアップの分子メカニズムの一端を明らかになりました。この結果が、進行性骨化性線維異形成症(FOP)患者さんの異所性骨化を早期に抑える新たな治療法の開発に役立つことが期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、「EMBO Molecular Medicine」オンライン版に12月3日付で掲載されました。