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網膜⾎管症(RVCL)の原因遺伝子TREX1の量と局在の異常が、乳がんと同様の発症機序を示す

新潟⼤学は6月10日、ペンシルバニア⼤学との共同研究により、疾患の原因である変異 TREX1タンパク質が、DNAの損傷によって、⽩質脳症および全⾝症状を伴う網膜⾎管症(RVCL)と呼ばれる重篤な遺伝性の希少疾患を引き起こすことを発⾒したと発表しました。

網膜⾎管症(RVCL)は、体内の細い⾎管の破壊がおき、脳、⽬、腎臓、肝臓など多くの臓器に影響を及ぼす疾患で、40代~50代に認知症、視⼒の低下、⼩さな脳梗塞などの症状が現れます。現在、有効な治療法はなく、最終的には脳の萎縮や失明を含む多臓器障害を発症します。網膜⾎管症(RVCL)患者さんは、世界で約200人いると言われていますが、がん、全⾝性エリテマトーデス(指定難病49)、多発性硬化症(指定難病13)といった異なる疾患に誤診されることがあります。

正常なTREX1は細胞内の不要なDNAを分解する機能を担っていますが、網膜⾎管症(RVCL)を引き起こすTREX1遺伝⼦の変異が、どのように臓器の障害を引き起こすのかはこれまで不明でした。

今回、研究グループは、網膜⾎管症(RVCL)患者さんの⾎管には、DNA損傷を引き起こす放射線照射による変化と類似の特徴が⾒られるという点に着目。DNA損傷がこの疾患のメカニズムに関与している可能性を考え、細胞、ショウジョウバエ、マウスを⽤いたモデルを作製しました。

その結果、RVCL変異TREX1がDNA⼆本鎖切断損傷を引き起こすことを発⾒しました。DNA⼆本鎖切断損傷は、放射線照射細胞で観察されるDNA切断様式です。そして、このDNA損傷の誘導は、DNA⼆本鎖切断損傷を修復する相同組み換え修復の阻害によって起こっていることを発⾒しました。また、RVCL変異TREX1タンパク質が引き起こすDNA損傷によって、細胞は増殖を停⽌し⽼化細胞へ形質転換することを発⾒しました。

また、RVCL変異を持つ細胞が、相同組換え修復に⽋陥のあるBRCA1/2変異がん細胞に選択的に作⽤する、PARP阻害薬という抗がん剤に感受性が⾼くなっていること発⾒しました。PARP阻害薬は、BRCA1/2遺伝⼦変異を持つ乳がん患者さんの治療に⽤いられています。これらの特徴が、BRCA1/2変異乳がん細胞と類似していたため、網膜⾎管症(RVCL)患者さんの乳がん発症率について解析を⾏いました。

網膜⾎管症(RVCL)⼥性患者さん16⼈の乳がん発症率に関するデータを、米国における⼤規模乳がん⼥性患者データ(97,900⼈)と⽐較解析した結果、網膜⾎管症(RVCL)患者さんでは若年性乳がんのリスクが⾼いことが明らかになりました。さらに、一般集団と比べて、網膜⾎管症(RVCL)⼥性患者さんは、50歳未満で乳がんを発症するリスクが約9倍であることが示されました。これは、RVCL変異TREX1がDNA修復機能を阻害し、DNA損傷の蓄積によって乳がんのリスクを増加させている可能性を⽰唆しています。

画像はリリースより

さらに、TREX1変異がDNA修復に及ぼす影響により、化学療法による損傷を受けやすくなることも判明しました。

以上の研究成果より、TREX1の量と局在の異常が、網膜⾎管症(RVCL)と乳がんの病態メカニズムに重要な役割を果たしていることが明らかになりました。また、TREX1の発現が炎症性刺激によって誘導されたことから、DNA損傷と炎症が相互に影響し合い、悪循環を形成している可能性が⽰唆されました。今回の研究成果は、網膜⾎管症(RVCL)だけではなく、⽼化のDNA損傷理論にも影響を与える可能性があり、加齢依存的なTREX1増加に関連するプロセスを理解することも重要であると考えられます。

今後、TREX1の量や局在を調節する因⼦の同定、TREX1の核内への異常な局在を抑制する⽅法の開発、DNA損傷と炎症の悪循環を断ち切る⽅法の開発が重要となり、網膜⾎管症(RVCL)の予防や治療に役⽴つ可能性が期待されるといいます。

なお、同研究の成果は、科学誌「Nature Communications」に6月1日付で掲載されました。

出典
新潟⼤学 プレスリリース

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