パーキンソン病やレビー小体型認知症のαシヌクレイン病変を検出するPET薬剤を開発
量子科学技術研究開発機構は6月6日、パーキンソン病およびレビー小体型認知症患者脳におけるαシヌクレイン沈着病変を世界で初めて可視化し、その沈着量が運動症状の重症度と関連することを明らかにしたと発表しました。
パーキンソン病(指定難病6)やレビー小体型認知症は、αシヌクレインというたんぱく質の病的な凝集体が出現し、神経細胞死を引き起こす疾患です。脳の異常により、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)の症状が現れます。パーキンソン病は、根本治療薬のない進行性の脳の病気のうちアルツハイマー病に次いで多いにもかかわらず、αシヌクレイン病変を生体脳で可視化する技術は未確立で、患者さんが亡くなった後で脳の病理検査(組織を取り出して染色等を行う)により病変を調べない限り、確定診断は行えませんでした。
これまで、量子科学技術研究開発機構は、アルツハイマー病の原因となりうるタウたんぱく質の病変を世界に先駆けて画像化するなど、異常たんぱく質の沈着を生体脳で可視化する技術の開発に取り組んできました。これまでの開発で得たノウハウを用いて、タウ病変よりもさらに量が少なく画像化が難しいとされるαシヌクレイン病変の生体脳での検出に挑み、2022年に製薬企業との連携でPET用薬剤(18F-SPAL-T-06)を開発しました。このPET用薬剤では、αシヌクレインが多量に沈着する多系統萎縮症(指定難病17)という疾患では病変を画像化できましたが、病変量が非常に少ないパーキンソン病やレビー小体型認知症では病変の画像化に至っていませんでした。
今回実施した研究では、αシヌクレイン病変に強く結合する別のPET用薬剤として18F-C05-05を開発し、パーキンソン病やレビー小体型認知症のモデルとなるαシヌクレイン病態伝播マウスおよびマーモセットで、病変を画像化できることを明らかにしました。さらに、このPET用薬剤を臨床で評価し、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者さんで病変を検出できることを実証。また、PETで検出されるαシヌクレイン病変の量と、運動症状の進行の間に関連性があることが示されました。
18F-C05-05の開発により、脳の病理変化に基づくパーキンソン病やレビー小体型認知症の診断や病気の進行度を客観的な評価に利用できることに加えて、治療薬開発時の効果判定にも有用な可能性があることが示唆されました。また、疾患モデル動物と患者さんの両方でαシヌクレイン沈着を検出できることから、非臨床と臨床をつなぐ橋渡し研究に利用でき、病態解明や治療薬開発を促進することが期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、科学誌「Neuron」オンライン版に6月6日付で掲載されました。