抗生物質エリスロマイシンが筋強直性ジストロフィーの本態となるスプライシング異常を改善することを世界で初めて示す
山口大学は、大阪大学との共同研究により、他の疾患に長年使用されている薬剤エリスロマイシンが、筋強直性ジストロフィーのスプライシング異常を改善する可能性を見出しており、今回、多施設共同医師主導治験(プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験)により、その安全性と有効性を世界で初めて確認したと12月27日発表しました。
筋強直性ジストロフィーは、骨格筋の症状による全身の筋力低下だけでなく、心臓の症状として不整脈や心不全、脳の症状として認知機能低下や性格変化などの多様な全身症状を引き起こします。有病率は約2,100人と成人で最も多い遺伝性筋疾患です。症状が進行すると、筋力低下により寝たきり状態となり、嚥下・呼吸障害や致死性不整脈・心不全が起こり、死に至ることがありますが、現在、有効な根本的治療薬はありません。
筋強直性ジストロフィーでは、変異遺伝子から生成される異常RNAにより、体内のスプライシング調節機構が破綻することで、様々な遺伝子のスプライシング異常が引き起こされます。また、このスプライシング異常が筋強直性ジストロフィーの病気の本態であり、疾患の重症度を示す指標(バイオマーカー)であることもわかっています。
これまで研究グループは、他疾患の治療薬として使用されている抗生物質エリスロマイシンを候補化合物として見出し、筋強直性ジストロフィーモデルマウスにおいて、他疾患で使用されている用法用量での有効性を示しました。そして、この新しい治療法を保険診療下で実施できるようにするため、今回の医師主導治験に至りました。
今回の医師主導治験は、筋強直性ジストロフィー患者さん30名に対し、エリスロマイシンもしくはプラセボを24週間内服した際の安全性と有効性を検証した臨床試験です。
同治験の結果、主要評価項目として設定された安全性については、エリスロマイシン投与群で消化器症状と関連する有害事象がやや多くみられたものの、重篤なものはなく、全例で軽快しました。このほか重篤な有害事象はみられませんでした。また、有効性を示す副次評価指標として、エリスロマイシン投与群では、スプライシング異常が統計学的有意に改善していることが示されました。エリスロマイシン投与群では、筋障害の指標となるクレアチンキナーゼ(CK)値は、低く抑えられる傾向がみられました。
以上の結果より、これまで筋強直性ジストロフィーのさまざまな治療薬が開発されてきましたが、エリスロマイシンが、実際に筋強直性ジストロフィーの本態であるスプライシング異常を統計学的有意に改善した世界初の薬剤となりました。また、安全性にも特に問題がみられなかったことから、今後の第三相治験でより多くの患者さんに対するエリスロマイシンの安全性と有効性が実証されれば、世界初の筋強直性ジストロフィー治療薬としての薬事承認につながることが期待できるといいます。
なお、同研究の成果は、英国の国際学術誌「eClinicalMedicine」に12月27日付で公開されました。