腸内細菌の体内流入による免疫反応を介した髄外造血が起こる仕組みを発見、自己免疫疾患の新規治療法開発に期待
熊本大学は11月30日、南方医科大学(中国)と神奈川県立産業技術総合研究所と慶應義塾大学先端生命科学研究所らの共同研究で、ヒト腸内細菌の一種であるAkkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)の体内流入がToll様受容体およびIL-1αを介して、脾臓における髄外造血を引き起こすことを発見したと発表しました。
細菌やウイルスなどの異物を排除する役割を持つ免疫系が過剰に反応し、自分自身の細胞や組織に攻撃を加えることによって起こる自己免疫疾患の一部では、貧血や血液細胞の異常増殖などの造血機能の異常や、脾臓が腫れる症状である脾腫を合併することがあります。脾腫を引き起こす原因はさまざまですが、普段は骨髄内に存在する未熟な造血細胞が、感染症などのストレスが加わった状態下で骨髄外に移動し、血液細胞を生み出すようになる「髄外造血」が脾臓で起こることによって脾腫を引き起こすこともあります。
また、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の患者さんでは、関節炎を併発することが知られています。これまで、腸管上皮のバリア機能が低下することにより腸内細菌が体内に侵入することが、髄外造血や関節炎の原因となる免疫の異常を引き起こすかどうか、明らかになっていませんでした。
今回、研究グループは、ヒトの腸内細菌の1~5%を占めるアッカーマンシアおよびその菌体成分をマウスの腹腔内に注射することでアッカーマンシアの体内流入を模倣した動物モデルを用いて、生体の反応を観察しました。
その結果、注射後2週間が経過した時点で著明な脾腫が認められ、脾臓内に造血幹細胞などの未熟な造血細胞が増殖している髄外造血が起こっていることが分かりました。また、この現象は、他の腸内細菌を使った実験では起こらなかったため、アッカーマンシア特有の現象であることが分かりました。
さらに、IL-1αは脾臓の成熟血液細胞から分泌され、これが骨髄から脾臓に移動した造血幹細胞などの未熟な造血細胞の増殖を刺激していることが分かりました。この反応は、免疫を司る分子であるToll様受容体や、炎症反応に関与する生理活性物質であるIL-1αを欠損したマウスにおいて、アッカーマンシア注射により脾腫の程度が軽くなり、アッカーマンシアによる髄外造血はToll様受容体およびIL-1αを介していることが分かりました。
モデルマウスにアッカーマンシアを腹腔内注射し、早期に骨髄から造血幹細胞や未熟な造血細胞(造血前駆細胞)が脾臓に移動し脾臓の成熟血液細胞から分泌されたIL-1αが、脾臓に移動した造血幹細胞や前駆細胞に存在する受容体に結合することで、これらの細胞の増殖を刺激し、約2週間後に脾腫を形成します。
以上の結果から、特定の腸内細菌が体内に侵入することにより免疫反応を介した髄外造血が起こることが明らかとなったことで、炎症性腸疾患の患者さんで併発する関節炎や自己免疫疾患の発症に腸内細菌が関与している可能性が示唆されました。
熊本大学は今後の展望について「今後はアッカーマンシアの菌体成分のうち、どのような成分が髄外造血や免疫異常を引き起こしているのかを明らかにすべく研究を進めていきます。これにより髄外造血や自己免疫疾患に対する新規治療薬の開発等に繋がることが期待されます」と述べています。