リアルワールドデータ解析より血尿と蛋白尿がIgA腎症の新たな予後予測因子となり得ることを示唆
川崎医科大学と滋賀医科大学と新潟大学と順天堂大学らの共同研究グループは11月29日、慢性腎臓病患者包括的縦断データベース(J-CKD-DB-Ex)を活用し、リアルワールドデータ解析による新たなエビデンス構築を行い、難治性腎疾患である免疫グロブリンA(IgA)腎症の新たな予後予測方法を開発したと発表しました。
IgA腎症は、糸球体に慢性的な炎症が起こることにより、血尿と蛋白尿を認める難病で、日本の慢性糸球体腎炎の中で最も多い疾患です。予後は、必ずしも良好ではなく、20〜40%の患者さんが初診後10〜20年以内に末期腎不全に至ります。また、無症状の尿検査異常から急速に進行する糸球体腎炎まで、さまざまな臨床症状があることから、予後予測が重要な課題となっています。現在のIgA腎症の重症度、予後予測分類にはいくつかの指標がありますが、腎生検による組織学的評価が必須であり、侵襲を避けることができません。
今回、研究グループは、指標日の推算糸球体濾過量(eGFR)測定値データがあり、指標日以降の尿検査による血尿・蛋白尿測定値、eGFR測定値を有する患者さん889人(平均年齢49.3歳、女性52.4%)を対象とし、腎生検ではなく尿蛋白や血尿の推移から、IgA腎症の予後を予測できるかを電子カルテから生成したリアルワールドデータから解析しました。
主要評価項目は、指標日からフォローアップ期間中(中央値49.0ヶ月)の持続的なeGFR50%以上の低下としました。また、繰り返しの尿検査による血尿と蛋白尿の測定値でそれぞれ4群の経時的な変化のパターン(軌跡)を特定した結果、血尿が持続的に高かった群は、血尿が低値を維持した群よりもeGFR50%以上の低下が約2.6倍高く、中等度の血尿から次第に減少した群では、そのリスクは有意ではありませんでした。
さらに、蛋白尿の軌跡と血尿の軌跡を組み合わせ、16グループを作成し、各グループにおける4年間のeGFRの50%以上の低下リスクをヒートマップで示しました。その結果、蛋白尿のパターンに関わらず、血尿が持続的に高い、または中等度に変動が見られないグループは、血尿が一貫して低いグループと比較して、eGFRが50%以上低下するリスクが約2倍に上ることを確認しました。
以上の研究成果より、尿検査による血尿と蛋白尿の軌跡を評価することで、リスクの高いIgA腎症患者を特定できることが明らかとなりました。尿検査という非侵襲的な検査方法をIgA腎症の重症化・予測指標として用いることで、日常診療の中で高リスク群の早期発見・介入が可能となり、IgA患者に重症化予防につながることが期待されます。
共同研究グループは今後の展望について「今後は、リアルワールドデータから生成されるビッグデータをさらに活用し、ランダム化比較試験を行うことが困難な希少疾患におけるエビデンス(リアルワールドエビデンス)構築や、年齢や診療行為(薬剤投与等)をはじめとした因子による生命・腎機能予後等への影響について長期間追跡する研究に展開していきたいと考えています。そして慢性腎臓病の実態を解明により、慢性腎臓病患者の生命・腎予後改善などに寄与し、国民の健康維持に貢献、さらにWell-being実現に貢献することを目標としています」と述べています。
なお、同研究の成果は、NEPHROLOGY誌に論文が掲載されました。