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多発性硬化症治療薬が作用する受容体の構造基盤を解明、副作用が少なく安全性の高い創薬開発に期待

東北大学は2021年12月24日、多発性硬化症治療薬と結合した生理活性脂質スフィンゴシン1-リン酸受容体の立体構造を解明したと発表しました。この研究成果は、同大大学院薬学研究科分子細胞生化学分野の井上飛鳥准教授ら研究グループによるもので、科学誌「Nature Chemical Biology」電子版に日本時間12月23日付で掲載されました。

自己免疫性疾患のひとつである多発性硬化症の患者さんでは、自己反応性の異常Tリンパ球がスフィンゴシン1-リン酸(S1P)に応答して体内を循環し、脳に到達して過剰な自己免疫反応を引き起こされます。多発性硬化症治療薬のフィンゴリモド(商品名:イムセラ)やシポニモド(商品名:メーゼント)は、自己反応性Tリンパ球の表面上にあるS1P受容体(S1PR1)に作用します。治療薬が結合したS1PR1は、S1Pが結合した場合と異なり、細胞内への持続的な取り込みとそれに続く分解を受けます。

これらの薬を服用した患者さんの自己反応性Tリンパ球は、S1Pに応答できず、脳への移行が阻害され、炎症が抑制されることが知られています。一方、これら治療薬がS1PR1に対してどのような構造変化を誘導し、分解経路に至るのかは不明でした。

画像はリリースより

研究グループは、中ハルビン工業大学のYuanzheng He教授らのグループとの共同研究によって、「S1P」「フィンゴリモドの代謝活性体」「シポニモド」という3種類の化合物がそれぞれ結合したS1PR1の立体構造を解明。それに基づいた分子動力学シミュレーションと機能解析を行うことで、治療薬結合型受容体の作動基盤を解明しました。この成果は、受容体の機能を選択的に誘導する薬剤、つまり副作用の少ない安全性の高い創薬開発に貢献することが期待されるそうです。

今回の成果について、研究グループはプレスリリースにて、「S1PR1を標的にする薬効に優れた多発性硬化症治療薬の開発に貢献するとともに、S1P受容体以外のGタンパク質共役受容体(GPCR)においても副作用を低減させた薬剤の開発に役立つことが期待されます」と述べています。

出典
東北大学 プレスリリース

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