1. HOME
  2. 難病・希少疾患ニュース
  3. リンパ球制御を可能としたヘテロ核酸を開発、自己免疫疾患治療の進歩に期待

リンパ球制御を可能としたヘテロ核酸を開発、自己免疫疾患治療の進歩に期待

東京医科歯科大学は2021年12月23日、従来のアンチセンス核酸では導入効率が低かったリンパ球に対して、ヘテロ核酸を用いることによって全身投与で高効率な細胞内取り込みと内在性遺伝子発現の抑制に成功したと発表しました。

この研究は、同大大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野(脳神経内科)の横田隆徳教授、永田哲也プロジェクト准教授、大谷木正貴大学院生によるもので、成果は科学誌「Nature Communications」に12月22日付でオンライン掲載されました。

開発が進む核酸医薬もリンパ球を標的とした疾患では課題も

核酸医薬は、低分子化合物や抗体医薬では困難な標的RNAの選択的制御を可能とする先端的なバイオ医薬技術。ここ数年で脊髄性筋萎縮症、家族性アミロイドポリニューロパチーやデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患において、核酸医薬が承認されています。これ以外にも多くの中枢神経疾患で臨床試験が進行中です。

一方、自己免疫疾患などリンパ球を標的とした疾患に対しては開発が進んでいません。リンパ球は、生体内での核酸(アンチセンス核酸やsiRNA)の取り込みが悪く、血中に循環しているリンパ球内の遺伝子制御は、非常に非効率的でした。そこで研究グループは、ヘテロ核酸を用いてリンパ球の内因性遺伝子の発現抑制研究に着手したそうです。

多発性硬化症モデルへの発症前投与で有意な発症遅延を観察

画像はリリースより

研究グループは、従来の核酸医薬に比べて、分子構造、多様なデリバリー分子、独自の細胞内作用メカニズムを持ち、高い有効性を示すDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸を独自に開発し、リンパ球に対する効果を検証。マウスの静脈内にヘテロ核酸を投与したところ、より長く血中に滞留し、アンチセンス核酸(ASO)と比較して末梢血液中のリンパ球における標的RNAを劇的に抑制しました。

また、T細胞が血液脳関門(BBB)を通過する際に利用する接着分子リガンドのα4β1インテグリン(VLA-4)を標的として、多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスに対してその効果を検証。その結果、発症前の投与では、有意な発症の遅延が観察され、組織学的にも炎症細胞浸潤や髄鞘の脱落(脱髄)の改善が見られたそうです。また、発症後の投与でも、EAE臨床症状の有意な改善を認めたといいます。

ヘテロ核酸に特有の取り込み機構がある可能性

さらに、発症機序にVLA-4の関与が報告されている移植片対宿主病(GVHD)モデルにおいても、脾臓由来T細胞をヘテロ核酸で処理した後に骨髄細胞とともに移植したところ、生存曲線の改善を確認。その一方で、各種阻害剤で核酸の細胞内取り込みを検討すると、ASOと比較してヘテロ核酸に特有の取り込み機構があることが示唆されたとしています。

また、採血で体内から取り出したリンパ球に対して、特に導入試薬を使わずにヘテロ核酸を作用させることで内在性遺伝子制御が可能となり、今後、体内からリンパ球を体外に取り出して遺伝子制御を行った上で、体内に戻す治療方開発の可能性も出てきたそうです。

研究グループは今回の研究成果についてプレスリリースにて、「リンパ球の遺伝子が制御可能となれば多くの疾患が治療可能となります。今回論文中で示した、多発性硬化症・臓器移植における拒絶反応や、他の自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(IBD)、関節リウマチ等に加えて、リンパ球性白血病、難治性ウイルス性疾患、悪性腫瘍に対する免疫治療など広範な疾患に対する適応が期待できます」と述べています。

出典
東京医科歯科大学 プレスリリース

関連記事