症候性先天性サイトメガロウイルス感染症の予後改善に繋がる新生児治療
手稲渓仁会病院および神戸大学らの研究グループは、先天性サイトメガロウイルス感染症に対し免疫グロブリンを用いた胎児治療と出生後の抗ウイルス薬による新生児治療により重い後遺症を改善できることを示しました。
サイトメガロウイルスは胎児に感染し難聴や発達障害などの重い後遺症にも繋がる感染症を引き起こす危険があります。日本国内において年間1000人程度の先天性サイトメガロウイルス感染症患者が生まれていると推定されており、発育不全や小頭症、肝腫大など特徴的な症状をもつ患者のうち約9割に難聴や発達障害といった上記の様な後遺症が残ると言われています。近年、先天性サイトメガロウイルス感染症に特徴的な症状をもって生まれた新生児に対し、バルガンシクロビルという抗ウイルス薬を用いて難聴や発達障害が軽くなることが明らかになってきました。一方で、先天性サイトメガロウイルス感染症の胎児に対する治療法は確立されておらず、胎児治療と新生児治療を組み合わせた報告はこれまでにありませんでした。そこで本研究では免疫グロブリン製剤を用いた胎児治療と抗ウイルス薬による新生児治療を組み合わせ、先天性サイトメガロウイルス感染症に罹患した子の後遺症への影響を世界で初めて調べました。
胎児期のサイトメガロウイルス感染は胎児超音波検査と羊水PCR検査により確認しました。また、胎児期の免疫グロブリン投与は胎児のお腹に直接投与(腹腔内投与)または妊婦の血管に投与(母体静脈内投与)により行いました。本研究には10年間に15例の患者が参加し、胎児治療と新生児治療の両方を受けた胎児治療群、または新生児治療のみを受けた新生児治療のみ群の2グループに分けて長期間観察しました。最終的な集計の結果、1歳半もしくは3歳の時点で発達が正常だった子の割合は、新生児治療のみ群21.4%に対し胎児治療群45.5%と高い傾向にありましたが有意差はありませんでした。一方で重い後遺症のある子の割合は新生児治療のみ群で64.3%だったのに対し胎児治療群では18.2%と有意に低いことが示されました。
出典元
神戸大学 研究ニュース