先天性大脳白質形成不全症の新たな病態メカニズムを発見
国立精神・神経医療研究センター神経研究所をはじめとする研究グループは、Pol Ⅲ関連白質変性症(Pol Ⅲ-associated leukodystrophies)の新たな病態メカニズムを発見したと発表しました。Pol Ⅲ関連白質変性症は遺伝性難病の先天性大脳白質形成不全症(指定難病 139)の1つでもあり、脳などの中枢神経に異常が起こり運動や知的な発達に障害がみられます。
背景-脳の発達異常がみられる小児疾患
研究グループは過去に、頭部MRI検査で髄鞘形成不全がみられるものの特定の診断の付かない症例のなかから、髄鞘形成不全とともに小脳萎縮または脳梁低形成を合わせ持つ一群を新たな疾患として2009年に報告しています。それらの疾患はPol Ⅲ複合体の主要な構成タンパク質をコードしている遺伝子の変異が原因と特定され、Pol Ⅲ関連白質変性症が新たな疾患概念として確立されました。これまでにPol Ⅲ関連白質変性症でみられる変異遺伝子として、POLR3A、POLR3B、POLR1C遺伝子がそれぞれ同定されています。Pol Ⅲは小さいサイズのRNAの転写に関わるRNAポリメラーゼであり、体内のほとんどすべての細胞で発現していますが、なぜPol Ⅲの機能欠損が脳内の髄鞘形成不全を引き起こすのかは解明されていませんでした。
結果- Pol Ⅲ遺伝子の変異によるスプライシングの異常を特定
本研究は2016年、「PMDと類縁疾患に関するネットワーク」を通じた診断の難しい先天性大脳白質形成不全症の患者さんに関する相談システムから始まりました。原因不明の先天性大脳白質形成不全症がみられた1症例について、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析の結果、POLR1C遺伝子に2つ変異が見つかり、これらの変異は両親からそれぞれ1つずつ受け継いでいる複合ヘテロ接合体であると確認されました。さらに、培養細胞および患者由来末梢血細胞を用いて、この遺伝子変異がどのような異常を引き起こすのかを解析しました。その結果、変異を持つPOLR1C遺伝子から作られたmRNAは異常な配列であり、変異タンパク質の細胞内分布も異常でした。また、患者の85%以上でもスプライシング異常が見つかったうえに、健常な保因者である両親でもスプライシング異常が起こっていました。この異常は変異を持たない方の正常なPOLR1C遺伝子でも見られることがわかりました。本研究により、Pol Ⅲ関連白質変性症遺伝子異常に伴うスプライシングの異常が病態の一端であることが示唆されました。さらなる研究によってPOLR1C遺伝子以外の遺伝子(POLR3A、POLR3B)でも共通した病態がみられるのか、解析が進められます。