ヒトES細胞を用いた世界初の肝臓細胞移植により赤ちゃん治療成功
ヒトES細胞を用いた世界初の移植成功
今回の研究グループは2019年10月21日より、「先天性尿素サイクル異常症に対するHAES移植治療の医師主導治験―新生児期発症型患者を対象とした探索的試験―」という医師主導治験を行っていました。治験を受けた患児は先天性尿素サイクル異常症と診断された生後6日の新生児です。今回の治験で、ヒトES細胞から作成した肝細胞をヒトに移植する安全性および、有効性を検証できました。これまで肝移植まで辿り着けなかった小さな命を、より安全に肝移植までつなげられると期待されます。
背景-「橋渡しの治療」への期待
先天性尿素サイクル異常症は、体内で発生する有毒なアンモニアを無毒な尿素に代謝する経路に先天的な異常が生じる疾患です。新生児に対する肝移植は技術的にも困難なうえ、患児に対し移植臓器が大きすぎるため、通常は安全に移植可能になる体重約6kgまで患児が成長するのを3から5ヵ月程度、待つ必要があります。この期間、欧米では脳死したドナーから摘出された肝臓から得られた肝細胞を移植することで血中アンモニア濃度の上昇を抑えることができます。一方、脳死肝移植ドナーからの肝細胞が使えない日本では、移植可能な体重になるまでの「橋渡しの治療」として、肝細胞移植のための高品質な細胞供給源が求められていました。
結果-肝疾患への再生医療開発にも期待
本研究では、ほぼ無限に増殖させることが可能なヒトES細胞に由来する肝細胞に着目し、新生児をより安全に肝移植までつなぐための新たな治療法の確立を目的としています。研究グループは、ヒトES細胞由来の肝細胞1億9000万個を、へその緒の血管を通じて2日間かけ患児へ移植しました。移植後9週次点で患児は退院出来ました。本研究の結果、肝疾患の患者に対しヒトES細胞由来の幹細胞を移植した世界初の例となりました。今後も研究を重ねることで、他の難病の治療法開発や治療成績の向上も期待されています。