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もうまくがさいぼうしゅ
網膜芽細胞腫Retinoblastoma

小児慢性疾患分類

疾患群1
悪性新生物群
大分類5
固形腫瘍(中枢神経系腫瘍を除く。)
細分類29
網膜芽細胞腫

病気・治療解説

概要

網膜芽細胞腫は、胎児性神経網膜由来の悪性腫瘍である。
腫瘍が片眼のみに発症する片側性(unilateral)と両眼に発症する両眼性(bilateral)がある。
眼球に腫瘍を単数認める単巣性(unifocal)、多数同時に認める多巣性(multifocal)の場合がある。
遺伝子異常の様式により、遺伝性(hereditary)、非遺伝性(non-hereditary)に分類される。

網膜芽細胞腫は、13番染色体の長腕のバンド14(13q14)に存在する網膜芽細胞腫遺伝子(RB1遺伝子)の異常により生じることが明らかにされている。RB1遺伝子は、がん抑制遺伝子の概念を確立した遺伝子であり、細胞周期の制御をはじめ、細胞の分裂増殖に重要な役割を担っている。2対の遺伝子の双方に異常がおこり、その機能が欠失して発症にいたる(Knudsonの2ヒット説)。

遺伝性例では、RB1遺伝子異常が、受精時に胚細胞レベルでおこっており(germ line mutation生殖細胞系列変異)、全身のあらゆる細胞に遺伝子異常をもち、後に二次がんを発症するリスクが高い。
非遺伝性例では、受精後に体細胞レベルで遺伝子異常をおこし(somatic mutation 体細胞変異)発症にいたると考えられ、二次がんの発症は一般人と変わりない。

疫学

小児期に発症する眼球内腫瘍の中で最も頻度が多い腫瘍である。15000〜20000出生に1人の頻度で、 5歳未満の小児における年間発症率は100万人あたり約10〜14人とされ、本邦では年間70〜80名の新規発症例がある。
1歳までの小児がんの11%を占めるが、15歳以下の小児がんではその約3%である。人種差、性差は指摘されていない。

平均発症年齢は18ヶ月、5歳までに95%が発症する。全体の約40%は遺伝性であり、多くの患者は両側性で、多巣性の病変をもち、1歳までに診断される。
これらのうち、家族性に発症するのは15%である。残りの60%は、非遺伝性であり、多くは片側性であり、単巣性であり、2歳から3歳にかけて発症する。

症状

腫瘍が小さいうちは、症状を認めず、腫瘍がある程度大きくなってから発症することが多い。
我が国の網膜芽細胞腫全国統計によれば、初発症状の頻度は、白色瞳孔60%、斜視13%、結膜充血5%, 視力低下2%、眼瞼腫脹1%、眼球突出0.5%の順となっており、白色瞳孔、斜視が多い。

診断

スクリーニングとして、乳幼児健診などで、眼球に光をあてて異常反射がないことを確認するのが望ましい。
近親者が異常を訴えている場合には、本疾患の可能性が否定されるまできちんと追跡するのが望ましい。
眼底が透見できる場合、眼底検査によって眼球内腫瘍の存在を確認することによって診断される。

その後の治療方針の決定のためには、腫瘍の存在とともに、腫瘍の大きさ、厚さ、位置、数、眼球外進展の可能性など病期診断が重要であり、早急に専門医療機関で評価を受けるのが望ましい。
眼底検査と同時に、超音波検査、CT、MRIなどの画像検査により、眼球内腫瘍の状態とともに、眼球外進展の有無を評価する必要がある。
眼底が透見できない場合には、超音波検査、CT、あるいはMRIによって眼球内腫瘍を確認する。
血液検査では、NSE, LDHの上昇を認めるが、腫瘍特異的な所見ではなく、参考所見である。
上記の検査から、眼球外進展の可能性が強く示唆される場合には、骨髄検査、髄液検査など転移の有無を検索する。

病期分類としては、Reese-Ellsworth分類が長く用いられてきたが、眼球温存治療として放射線治療が用いられた時代の分類であり、放射線治療をできるだけ回避しようとする今日では、あらたに提案された国際分類が用いられる。

治療

治療の目標は第1に救命であるが、腫瘍が眼球内にとどまる場合には、視機能や眼球を温存することが第2の目標とされる。今日では、疾患そのものより二次発症の有無が生命予後を左右するため、特に遺伝性例では、二次がんリスクを高めるような診断法や治療法をできるだけ用いないようにする配慮が必要である。

1. 眼球内腫瘍の治療

1)眼球摘出と術後化学療法: 国際分類E群に分類されるような、進行病変の場合には、温存治療によっても有効な視機能が期待できないことが多く、眼球外進展の可能性も否定できないことから、眼球摘出が第一選択とされる。
眼球摘出後に、病理組織学的検査により、腫瘍の浸潤程度を評価し、術後化学療法の必要性を判断する。
摘出眼球の強膜外浸潤、視神経断端の腫瘍細胞陽性所見は、術後化学療法の適応とされる。
他に、篩状板を超えた視神経浸潤、高度の脈絡膜浸潤、前房浸潤も適応があるとされ治療が行なわれることが多かったが、不要とする報告もあり議論が多い。
術後療法の必要性に関して国際的なコンセンサスを形成する努力が行なわれ、病理組織評価のガイドラインが発表され、さらに術後療法の適応についての検討が続けられている。

2)眼球温存治療: 温存治療は、視機能と眼球を温存しながら救命し、高いQuality of Life(QOL)を達成しようとする治療である。治療の成否は、腫瘍の進展度に左右される。
近年の報告では、温存治療例と眼球摘出例の生存率に差がないことが示されているが、治療中や治療後の眼球外進展と転移の危険性は皆無ではなく、患者・家族がそのメリット、デメリットを十分理解し、インフォームド・コンセントを得たうえで実施する必要がある。

温存治療の標準的治療であった放射線治療(外照射)は、有効な治療法であるが、遺伝性例では治療によって二次がんリスクが上昇すること、白内障などの眼科的合併症、眼窩骨の発達障害による顔貌の問題などから、今日では他の治療法では目標を達成しがたいときに用いられる。

全身化学療法は、放射線治療に代わる初期治療として導入され、用いられるようになったが、単独では治癒にいたることが少なく、放射線治療を用いずに温存を達成するため、様々な局所療法が導入され併用されてきた。

局所療法にはレーザー治療、温熱療法、冷凍凝固治療、小線源治療があり、小腫瘍に対しては初期治療として用いられることもあるが、多くは化学療法と併用して用いられる。
抗がん剤メルファランを眼動脈に注入する局所化学療法は、放射線治療抵抗例の治療として我が国で開発され、温存率を向上させた治療である。

治療法の変遷とともに、化学療法後の局所治療として用いられる。全身化学療法や、上記の局所療法では制御が困難な硝子体播種にたいする治療として抗がん剤の硝子体注入があり、近年用いられ、温存率を向上させている。欧米では全身化学療法を用いずに、局所化学療法と局所治療によって温存を達成する試みがはじまっている。

2.眼球外腫瘍の治療

眼球外に腫瘍を見て認めた場合には、診断後、遠隔転移の有無を評価した後、腫瘍を摘出し、放射線治療・化学療法を併用して治療される場合が多い。
特に遠隔転移を認める場合には、通常の化学療法では制御が困難で、大量化学療法と放射線治療が併用される場合が多い。
これらの治療の強化に関わらず、中枢神経系転移を認める場合は、救命が困難である。

3.三側性網膜芽細胞腫

三側性網膜芽細胞腫は、遺伝性例に発症する脳腫瘍で、正中線上に生じ、松果体部に最も多い。
殆どが診断後9カ月以内に播種を起こし死亡する。
造血幹細胞移植を併用した大量化学療法が導入され、救命例が報告されるようになった。
早期発見例に救命の可能性が高いため、放射線被爆の問題と検出感度から、MRI検査による高リスク患者のスクリーニングが薦められる。

4.二次がん

遺伝性例では、頻度順に頭蓋骨・長管骨の骨原性肉腫、松果体腫瘍(三側性網膜芽細胞腫)、皮膚黒色腫(メラノーマ)、脳腫瘍など2次がんを発症するリスクが高い。放射線治療によりその発症リスクが上昇する。
難治性の疾患が多く、2次がんの発症の有無とその治療の成否が遺伝性例の生命予後を左右する。
治療には、強力な化学療法、放射線治療を必要とすることが多く、治癒した場合、治療によりさらに3次がんが誘発され発症する可能性がある。

予後

我が国をはじめとする先進国では、ほとんどが眼球内腫瘍の状態で診断されるために, 1980年代から5年生存率、10年生存率ともに90%を超えている。
原疾患よりも、二次がん発症の有無とその治療の成否が生命予後を左右するようになっており、特に遺伝性例では、治療にそのリスクを上昇させる可能性のある治療を用いないなどの配慮が必要であり、日常でも放射線を用いた検査の機会をできるだけ少なくする配慮が必要である。
眼球温存の達成は、病期に左右され、国際分類A群、B群に相当する3mm以下の小腫瘍はレーザー凝固や冷凍凝固で9割近くが温存可能であるが、国際分類D群に相当するびまん性播種を認める例では、様々な治療を併用して5割近くで可能となっている。

参考文献

1) 鈴木茂伸:小児科医が知っておきたい目の病気:眼部腫瘍、小児科 54(6):899-904, 2013
2) 鈴木茂伸:眼球内網膜芽細胞腫の診断と治療、日本小児血液・がん学会雑誌51(3):285-288, 2014
3) 柳澤隆昭:網膜芽細胞腫、日本臨床増刊号:最新がん薬物療法学 72:505-509, 2014.

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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