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じんけっかんせいこうけつあつ
腎血管性高血圧Renovascular hypertension

小児慢性疾患分類

疾患群2
慢性腎疾患
大分類9
腎血管性高血圧
細分類29
腎血管性高血圧

病気・治療解説

概要

腎血管性高血圧は大動脈から腎臓へとつながる腎動脈またはその分枝が部分的あるいは完全に閉塞した結果,レニン・アンジオテンシン系が冗進して引き起こされる高血圧である。
原因として成人では動脈硬化症(粥状動脈硬化)によるものが多く,小児・若年者では線維筋症によるものが多い(1, 2)。

病因・病態

腎血管性高血圧を来す疾患として,粥状動脈硬化,線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia:FMD),高安大動脈炎の頻度が高く,この他,大動脈縮窄症,解離性大動脈瘤,1型神経線維腫症,Williams症候群,もやもや病,褐色細胞腫や転移性腫瘍による腎動脈の圧迫や塞栓など多彩な疾患があげられる。中・高年齢者では粥状動脈硬化の頻度が高く,小児や若年者ではFMDの頻度が高い。粥状動脈硬化は腎動脈の起始部に,線維筋性異形成は中遠位部に好発する(3)。
腎血管の血流量,もしくは灌流圧が70~80%異常低下すると,傍糸球体細胞からのレニンの遊出をもたらし,その結果レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系が賦活化する。一側性の場合は,腎の灌流が減少することによりとRAA系が充進し,その結果アンジオテンシンII依存性の高血圧が形成される。一方,対側ではRAA系は抑制され,それに血圧上昇が加わる結果Na排泄量が増量する。両側性,もしくは単腎一側性の場合には,腎灌流の減少によりRAAが充進するが,一方ではNa排泄の障害が起こり,RAA系はむしろ抑制され,結果的には正常もしくはやや抑制傾向となる。このように両側の腎動脈に狭窄がある場合には,見かけ上RAA系は正常であることが多い(4)。

臨床症状

腎血管性高血圧の患児における血圧は収縮期200mmHg前後の極めて高値を呈する場合が多く,高血圧脳症や心不全などの重篤な合併症状で発見される場合も多い。また,一般に薬物療法ではコントロールが困難であり,2種類以上の降圧薬が必要となる。一方,年少児であるほど血圧を測定する機会が少なく、無症候性の場合は診断が遅れる場合が多い。
身体所見で唯一特徴としてあげられるのは腹部の血管雑音の存在であり,腎血管性高血圧の50~60%近くで聴取される。

診断・鑑別診断

腎血管性高血圧の確定診断は画像検査で行うが,その他各種検査を状況に応じて使い分ける必要がある。
血液検査所見では安静時の末梢血検査で血漿レニン活性(PRA)の上昇を認めるが、高値を認めるのは本症の約50%程度である。臨床経過の長い場合や両側性腎動脈狭窄では正常値を示す場合がある。また,体動や啼泣により容易に上昇するため,特に小児ではPRA上昇の判断が困難な場合が多い。その他,RRA系の亢進により低カリウム血症を呈する場合が多く,診断の補助となる。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるカプトリル0.7mg/kg(最大50mg)を投与し,投与前と投与1時間後のPRA値を測定する方法(カプトリル負荷試験)は,より診断に有用であるが,両側腎動脈狭窄では陰性となることも多い。
カプトリル負荷レノグラムは,カプトリル負荷によって狭窄側の腎血流がさらに低下し,健側の血流が増加することによって左右差が増強することを利用した方法で検出率が高い。しかし,特に小児においては再現性が得にくく,血管造影検査をしのぐ診断法とは言えない(5)。また,いずれの場合も高血圧脳症の発症例など緊急的な状況下で行うことは困難である。
画像検査として超音波検査は形態的かつ機能的診断のスクリーニングとして有用性が高い。腎臓に10mm以上の左右差を認める場合,腎血管性高血圧を疑うが,左右差を認めない症例も多い。腎血流ドプラでは腎動脈起始部ならびに腎内の区域動脈,葉間動脈の血流を検出し,腎動脈狭窄の評価が可能である。腎内血流パターンから求められる抵抗係数を,経皮的腎動脈形成術(per‐cutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)の効果予測の指標とする場合もある(2)。
近年の造影CT検査は解像度が優れており,細部に渡り狭窄部位の検索が可能である。また,小児に対しても迅速に行えるという利点がある。しかし,多量の造影剤を使用することから,腎機能障害がある場合には施行しにくい。MRI検査(MRアンジオグラフィー)も血管狭窄病変を検出するのに有用であり,造影剤を使用しないことから腎機能障害のある患者にも行える。両側の腎機能障害を伴う両側性腎動脈狭窄や,移植腎の血管閉塞などを検出する場合に有用である。
確定診断には,腎動脈血管撮影および腎静脈レニンのサンプリングが最も有用であるが,侵襲性の問題があり,上記のスクリーニング検査で診断のつかない症例や,腎動脈狭窄の詳しい評価が必要な場合に行われる。小児や若年者に多いFMDでは,末梢病変を見落とす可能性があり,選択性腎動脈造影の適応となる。

治療・予後

小児の腎血管性高血圧はFMDに起因する例が多く、粥状動脈硬化の多い成人例と比較して成功率が高いことから、降圧薬でコントロールができない症例はバルーンカテーテルを用いたPTRAが良い適応となる。本法は比較的侵襲が少なく繰り返し施行できる利点があるが、高安動脈炎など血管炎の活動期には通常施行しない。ステントの挿入は、PTRA直後や成功後早期に再狭窄を生じる症例については適応があるが、長期にわたる抗凝固薬の内服が必要になることや、長期的な予後が不明であることなどから小児に対して行われる頻度は少ない。
薬物治療は、国内外で比較的広く小児に対して使用され、安全性が確認されているものを優先して使用する(6, 7)。ACE阻害薬やARBなどのRA系阻害薬はレニン依存性の腎血管性高血圧に対して有用であるが、小児に対して保険適用や安全性が確立している薬剤が少ないことや、これらの薬剤では狭窄病変の進行は抑制できないこと、さらに血管狭窄を助長し虚血性の腎機能障害を加速する可能性があることから使用しづらい面もある。RA阻害薬は、高度な両側性腎動脈狭窄を認める症例には原則禁忌であり、DMSAシンチグラフィやレノグラム検査などを併用し、患側の腎機能の急激な低下がないことを確認しつつ慎重に用いる必要がある。また、催奇形性があることから、比較的本症の発症頻度が高い若年女性に用いる際には注意が必要である。利尿薬はRA系の活性を助長する可能性があり、降圧目的では使用しない方が良い。
PTRAでの血行再建が困難な場合や再狭窄を来たす症例では、外科的に狭窄部位を切除する血管再建術や自家腎移植術、あるいは高度機能不全を認める腎については摘出術も検討する必要がある。
本症に対するPTRAや外科的治療による治療成績や予後については多くの異なる報告があり、PTRAで24~94%で治癒あるいは血圧の改善が報告されている。これは、小児における腎血管性高血圧の原因がPTRAの適応になりにくい高安動脈炎など多様であることに起因すると考えられ、特に腎動脈以外に狭窄病変が多発する症例では治療が困難な場合が多い。病変が腎動脈に限局している場合は80%以上の改善が見込まれるという報告もある(2)。高血圧が持続する症例は、重篤な心血管系合併症を生じる可能性が高く、降圧薬、PTRAおよび外科的治療を組み合わせた徹底した管理が予後の改善のために重要となる。

参考文献

1) Garovic V, Textor SC. Renovascular hypertension: current concepts. Semin Nephrol 25:261-271, 2005
2) Tullus K, et al: Renovascular hypertension in children. Lancet. 26;371:1453-1463, 2008
3) Safian RD, Textor SC. Renal-artery stenosis. N Engl J Med 344:431-442, 2001
4) Hackam DG, Spence JD, Garg AX, Textor SC. Role of renin-angiotensin system blockade in atherosclerotic renal artery stenosis and renovascular hypertension. Hypertension 50:998-1003, 2007
5) Tullus K, Roebuck DJ, McLaren CA, Marks SD. Imaging in the evaluation of renovascular disease. Pediatr Nephrol. 25:1049-1056, 2010
6) National High Blood Pressure Education Program Working Group on High Blood Pressure in Children and Adolescents. The fourth report on the diagnosis, evaluation, and treatment of high blood pressure in children and adolescents. Pediatrics 114: 555-576, 2004
7) 小児期心疾患における薬物療法ガイドライン.循環器病の診断と治療に関するガイドライン2012.2010-2011年度合同研究班報告:89-301, 2012

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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