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じんどうじょうみゃくろう
腎動静脈瘻Renal arteriovenous fistula

小児慢性疾患分類

疾患群2
慢性腎疾患
大分類11
腎動静脈瘻
細分類31
腎動静脈瘻

病気・治療解説

概要

腎動静脈痩は原因によらず,腎内で静脈系と動脈系が異常な交通をもったものと定義される(1)。
本症は比較的まれな疾患であり,無症候で潜在しているものも相当数あると推察される。他の疾患の精査にて施行された画像検査で偶然発見されることも多い。

病因・病態

腎動静脈痩は先天性と後天性に分類され,更に後天性は特発性腎動静脈痩と続発性腎動静脈痩に分類される。また,血管造影の所見からは, 形態学的にcirsoid typeとaneurysmal typeに分類される(2)。 Cirsoid typeは毛細血管を経ずに, nidusと呼ばれる異常血管を介して動静脈間に交通が生じたものである。 複数の流入動脈と複数の流出静脈をもち, 動静脈間の交通が多い(3)。 aneurysmal typeは1本の流入動脈と1本の流出静脈よりなる。 あらかじめ存在していた腎動脈瘤が近接の静脈と交通し生じると考えられている。 後天性の腎動静脈痩はaneurysmal typeが多い。

a.先天性腎動静脈痩
一般的にcirsoid typeをとり,動脈系が静脈と複数の交通をもっている。腎動静脈奇形とも呼ばれる。本症の約25%を占める。発症に性差はなく, 大人になるまで発見されない例が多い(2)。

b. 特発性腎動静脈痩
血管造影所見は続発性腎動静脈痩と類似しながら,原因が特定できないものをいう。 本症の約5%を占める。

c. 続発性腎動静脈痩
本症のうち約70%を占め, 最も頻度が高いタイプである。 医原性, 悪性新生物, 外傷あるいは炎症などにより生じた仮性動脈瘤が静脈との問に交通をもつことにより形成される。 医原性の原因としては腎生検, 経皮的腎痩造設あるいは腎部分切除術などが挙げられる。 このうち, 針腎生検後に形成されるものの頻度が最も高い(4)。 最近では, 腎細胞癌に対する腎部分切除術の適応が拡がってきており, この術後に生じるものの報告例が増えてきている(5)。

臨床症状

腎以外で生じる動静脈痩と同様にシャント血流量が多ければ静脈還流の増大による心拍出量の増加で収縮期高血圧をきたす。この際,心臓が静脈還流量の増大を代償できなければ,高心拍出性の心不全を生じる。また,比較的近位部の動脈において静脈との交通が生じた場合,そこよりも遠位部は低灌流となりレニン分泌が刺激されることがある。このような場合には腎血管性高血圧の病態に類似した,レニン・アンジオテンシン系亢進による高血圧を呈する。
先天性(cirsoid type)では顕性血尿の頻度が高い。これはnidusが腎孟腎杯の近傍に発達することが多く,容易に穿破するためであると考えられている。
後天性のほとんどは無症候性であり, 他の疾患の精査にて施行された画像検査で偶然発見されることが多い(6)。
続発性では腹部血管雑音の聴取が診断のきっかけとなることがある。 原因不明の高血圧や心不全症例において腹部血管雑音が聴取された場合には, 腎動脈狭窄のみならず本症も想起しておく必要がある。

診断

診断は上記の臨床症状および画像検査によっておこなう。かつては確定診断に血管造影が必須で,腎動脈造影にて動脈相早期に腎静脈が造影されれば診断が確定する。最近では,multi-detector CT(MDCT)の普及により,より低侵襲で確定診断が可能となり,同時に3次元的に流入動脈および流出静脈の描出ができるようになっている。
造影剤が不要なMR angiographyや超音波検査の有用性も報告されている。特にカラードプラ超音波検査は非侵襲的であり,本症の診断および経過観察に優れている。なかでも腎生検後に生じた腎動静脈痩の診断に非常に有用であり,術後仮性動脈瘤の検出能も高い(7, 8)。カラードプラで検出される典型的な像は,組織の振動と乱流によるモザイク像である。

治療・予後

本症の治療適応は,シャント血流量と症状によって判断される。症候性の腎動静脈痩,すなわち高血圧,心不全あるいは重症の血尿などは治療の適応となる。また,経時的に拡大してくる病変,動脈瘤破裂あるいは進行する腎不全も治療の対象となる。
治療法には経カテーテル的塞栓術と手術療法が挙げられるが,最近では腎機能温存,低侵襲などの理由で経カテーテル的塞栓術が主流となってきている。
経力テーテル的塞栓術は針腎生検後に生じた動静脈痩など病変が単純で痩孔の小さなものが最も良い適応となる。塞栓物質としてゼラチンスポンジ,金属コイル,無水エタノール,着脱式バルーンなどが用いられている(9)。従来,血流量の多い病変に対しては,塞栓物質の流出の恐れがあるため手術療法が選択されることが多かったが,最近では閉塞バルーンによる血流コントロール,あるいは着脱可能なコイルを用いた方法により,経カテーテル的塞栓術の適応が拡大してきている(10, 11)。本治療法に特異的な副作用として,塞栓物質の漏出による正常組織の損傷があり,特に肺塞栓は重篤である。また,塞栓後症候群として痺痛,嘔気・嘔吐,発熱などがみられる。
手術療法は上述の経カテーテル的塞栓術の適応のない症例が適応となる。流入動脈の結紮術や腎摘除(全摘除もしくは部分摘除)が行われる。高血圧を呈した症例における手術成績の報告では,62%の症例において改善がみられている。しかし,高血圧が長期にわたり腎硬化症をきたしている場合には成績が良くない(12)。一方,外傷などに続発した症例では,成功率は85%以上であると報告されている(13)。

参考文献

1) Ge Chechile OA, et al: Aneurysm and arteriovenous malformation. In: Renal Vascular Disease (ed by Novic AC, et al), p35-46, WB Saunders, London, 1996
2) Novic AC, Fergany A: Renovascular hypertension and ischemic nephropathy. In: Campbell Walsh Urology, 9th ed (ed by Wein AJ, et al), p1189-1190, Saunders, London, 2006
3) Crummy AB, et al: Congenital renal arteriovenous fistulas. J Urol 93:24-26, 1965
4) Omoloja AA, et al: Post-biopsy renal arteriovenous fistula. Pediatr Transplant 6: 82-85, 2002
5) 宮地禎幸:腎動静脈痩. 臨床泌尿器科65: 33-37, 2011
6) Takaha M, et al: Intrarenal arteriovenous malformation. J Urol 124: 315-318, 1980.
7) Deane C, et al: Arteriovenous fistula in renal transplants:color Doppler ultrasound observations. Urol Radiol 13: 211-217, 1992.
8) Rashjd M, et al: Intrarenal post traumatic pseudoaneurysm-US Gcolor Doppler diagnosis: a case report with review of literature. Emerg Radiol14: 257-260, 2007.
9) Crotty KL, Orihuela E, Warren MM. Recent advances in the diagnosis and treatment of renal arteriovenous malformations and fistulas. J Urol 150:1355-1359, 1993
10) Resnick S, Chiang A. Transcatheter embolization of a high-flow renal arteriovenous fistula with use of a constrained wallstent to prevent coil migration. J Vasc Interv Radiol 17:363-367, 2006
11) Mori T, Sugimoto K, Taniguchi T, et al. Renal arteriovenous fistula with rapid blood flow successfully treated by transcatheter arterial embolization: application of interlocking detachable coil as coil anchor. Cardiovasc Intervent Radiol 27:374-376, 2004
12) Morin RP, Dunn EJ, Wright CB. Renal arteriovenous fistulas: a review of etiology, diagnosis, and management. Surgery 99:114-118, 1986
13) McAlhany JC Jr, Black HC Jr, Hanback LD Jr, Yarbrough DR 3rd. Renal arteriovenous fistula as a cause of hypertension. Am J Surg 122:117-120, 1971

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