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げんぱつせいりんぱふしゅ
原発性リンパ浮腫Primary lymphedema

小児慢性疾患分類

疾患群16
脈管系疾患
大分類1
脈管奇形
細分類5
原発性リンパ浮腫

病気・治療解説

概念

原発性リンパ浮腫(primary lymphedema)は、癌手術におけるリンパ節隔清等の何らかの誘因後に発症する二次性リンパ浮腫と区別され、リンパ管の先天的低形成・無形成や機能不全により、四肢、特に下肢を中心にリンパうっ滞(浮腫)を発症し慢性的に経過する疾患である。
症状・経過は多様であるが、浮腫により肥大した四肢の整容性の問題や感染やどの患部に続発する問題によって生涯にわたり身体的・精神的苦痛となる難治性疾患である。
原発性リンパ浮腫は、発症時期により先天性(1歳未満)、早発性(1~35歳)、遅発性(36歳以上)の3型に分類される(Kinmonthの分類)。一方、原発性リンパ浮腫は他の特徴的な症状を合併する症候群の一症状である場合もある。リンパ浮腫の関連遺伝子が次々と発見されており、それらを含めて病態発生機序の理解が進むにつれて、分類は今後も修正を繰り返すと予想される。

病因

何らかのリンパ管形成不全や機能不全による末梢リンパ液の還流障害により発症するが、発症時期や浮腫の程度は様々であり病因も一様ではないと考えられる。
原発性リンパ浮腫の原因となる遺伝子については、家族例、症候群などの研究により、FoxC2、VEGFR-3、SOX18等、発症と関連する遺伝子の異常が次々と挙げられており、遺伝子の病態発生への影響に関する理解は進んでいる。
しかし遺伝子の異常が確定されるものは一部であり、孤発例が多く、本疾患全体の原因や病態解明は遠い。

疫学

本邦の原発性リンパ浮腫患者数は、2009年の厚労科研研究班(笹嶋唯博班長)の調査の報告(2013年)では3,600名程度(人口10万人対3.00人)とされている。発症時期による内訳は、先天性9%、早発性42%、遅発性49%であった。 男女比は男:女=1:1~9で女性に多い。

臨床症状

原発性リンパ浮腫は、特に誘因なく四肢、特に下肢に発症する(88%)慢性進行性の浮腫である。程度は様々であるが、下肢では足背部や下腿を中心として皮膚皮下の浮腫状の腫脹、冷感、疼痛などを認める。そして経過とともに進行して蜂窩織炎、色素沈着、皮膚の乾燥皮膚血流障害、皮膚潰瘍、リンパ漏、白癬症等の皮膚感染症、硬化、象皮症、関節拘縮による機能障害、リンパ管肉腫などの悪性腫瘍を発症することもある。

検査所見

有用とされる画像検査には、水分の貯留を確認できる超音波検査やMRI、放射性同位元素により標識したトレーサーを投与することによりリンパ流を画像的に確認するリンパシンチグラフィ(保険未収載)、インドシアニングリーン色素(ICG)を用いた蛍光リンパ管造影(保険未収載)等がある。
また二次性に浮腫を生じうる病態を除外するために、血液・尿検査、胸部X線などは必須である。

診断の際の留意点

明確な診断基準はないが、間質にアルブミンなど蛋白質の豊富は組織液(リンパ)が滞留している状態(リンパ浮腫)で、手術、外傷、放射線などの原因が除外される場合に原発性リンパ浮腫と診断される。

治療

原発性リンパ浮腫に対する根本的治療法はない。
したがって治療の目的はリンパ浮腫の進行の阻止、浮腫に伴って生じる種々の問題の予防、そして続発症に対する対症療法となる。
保存的治療は患肢挙上、運動制限に加えて、マッサージ(リンパドレナージ)療法と圧迫療法(弾性包帯、弾性ストッキング)治療がある。
外科的治療としては、病変組織を減量する目的で、直接的な組織の切除術や脂肪吸引が行われることもある。またリンパ管静脈吻合術も近年広まっているが、原発性リンパ浮腫に対する効果は現時点では不確実である。血管化リンパ管及びリンパ節組織移植も一部で行われている。特に、先天性では保存的治療以外に有効な治療法はない。
利尿剤などによる内科的治療も補助的に行われることはあるが、効果は不定である。

合併症

色素沈着、皮膚血流障害、皮膚潰瘍、易感染性、関節拘縮、象皮症、リンパ管肉腫など。

予後

リンパ浮腫のサブタイプによって差があり、出生直後からほとんど増悪がないものから、進行性で合併症が増えていくタイプまで様々である。治癒は見込めず、基本的には対症療法を続けねばならない。

成人期以降の注意点

原発性リンパ浮腫の根本的治療は現時点では困難であるが、進行を抑えたり、遅らせたりすることを目的に前述の保存的療法を継続的に行うことが勧められる。
また患部の蜂窩織炎はしばしば重篤となり、浮腫の増悪因子でもあるため、ケガ、皮膚の荒れなどに注意する。

参考文献

Kinmonth JB. The lymphatics:Surgery, lymphography and diseases of the chyle and lymph systems. London: Edward Arnold; 1982. p.83-104.
Connell, F.C., et al., The classification and diagnostic algorithm for primary lymphatic dysplasia: an update from 2010 to include molecular findings. Clin Genet, 2013. 84(4): p. 303-14.
齊藤, 幸., リンパ浮腫治療への新たな挑戦とその展望 原発性リンパ浮腫診断治療指針の上梓と克服へ向けた今後の展開. リンパ学, 2013. 36(1): p. 40-46.
Smeltzer, D.M., G.B. Stickler, and A. Schirger, Primary lymphedema in children and adolescents: a follow-up study and review. Pediatrics, 1985. 76(2): p. 206-18.
Brouillard, P., L. Boon, and M. Vikkula, Genetics of lymphatic anomalies. J Clin Invest, 2014. 124(3): p. 898-904.
Mihara, M., et al., Indocyanine green lymphography and lymphaticovenous anastomosis for generalized lymphatic dysplasia with pleural effusion and ascites in neonates. Ann Vasc Surg, 2015. 29(6): p. 1111-22.
Becker, C., et al., Surgical treatment of congenital lymphedema. Clin Plast Surg, 2012. 39(4): p. 377-84.
Allen, R.J., Jr. and M.H. Cheng, Lymphedema surgery: Patient selection and an overview of surgical techniques. J Surg Oncol, 2016. 113(8): p. 923-31.
原発性リンパ浮腫全国調査を基礎とした治療指針の作成研究 平成21_23年度 総合研究報告書 研究代表者 笹嶋唯博 (平成24年3月)

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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