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ろいす・でぃーつしょうこうぐん
ロイス・ディーツ(Loeys-Dietz)症候群Loeys-Dietz syndrome

小児慢性疾患分類

疾患群13
染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
大分類1
染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
細分類18
ロイス・ディーツ(Loeys-Dietz)症候群

病気・治療解説

概要

大動脈病変を主に、心血管系、骨格系、皮膚他にも特徴的な症状を伴う全身性の遺伝性結合織疾患である。
マルファン症候群に類似する大動脈、骨格病変を主所見とするが、口蓋裂・二分口蓋垂・眼間解離などの特徴的な顔貌、全身動脈の蛇行、頭蓋骨早期融合、先天性心疾患、精神発達遅滞などをしばしば伴う。ロイス・ディーツ症候群(LDS)の原因遺伝子としては、TGFBR1、TGFBR2、SMAD3、TGFB2、TGFB3が見つかっており、2014年以降は原因遺伝子によって、それぞれ、LDS1、LDS2、LDS3、LDS4、LDS5とされている。以前には水晶体亜脱臼を伴わないマルファン症候群(2型)と呼ばれたものも含み、しばしばマルファン症候群との鑑別が必要となる。

病因

マルファン症候群と同様、常染色体優性遺伝形式をとる単一遺伝子疾患である。現在、ロイス・ディーツ症候群の原因遺伝子としては、TGFBR1(9q22)、TGFBR2(3p22)、SMAD3(15q22)、TGFB2(1q41)、TGFB3(14q24)が同定されているが、これらは、いずれもトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)のシグナル伝達系の分子で、それぞれ、1型受容体、2型受容体、R(制御)-SMAD、リガンドに相当する。報告された変異は、いずれも機能喪失型の変異であるが、患者組織におけるTGF-βの活性は、いずれの場合も増加していることがわかっており、シグナル伝達系の一部分子の機能低下が、恒常性の異常をもたらし、その結果、全体のTGF-β活性の上昇につながるのではないか、と推測されている。

疫学

頻度は不明であるが、マルファン症候群の数%がロイス・ディーツ症候群であるという報告が多い。
マルファン症候群ほど血管以外の身体所見が目立たない症例もあり未診断例も多いと思われる。家族的背景のあるのは約25%で、マルファン症候群に比べると突然変異による症例が多い。マルファン症候群以上に臨床症状は多彩であるが、一部の重症変異については、比較的個体差が少なく、類似の経過をたどるものある。

臨床

症状頻度の高い所見としては、心血管系症状(動脈瘤・動脈蛇行)と骨格症状(特徴的顔貌、側弯、漏斗胸または鳩胸、クモ状指趾、内反足)があげられるが、実臨床の場においてはマルファン症候群との鑑別が問題となることも少なくない。

心血管系:大動脈瘤・中小動脈瘤・蛇行・先天性心奇形(動脈管開存、心房中隔欠損、心室中隔欠損、大動脈二尖弁、他)

特徴的顔貌:眼間開離、口蓋裂・二分口蓋垂、小顎・顎後退、頬骨低形成、眼瞼裂斜下、青色強膜、斜視、高口蓋、叢歯、早老様顔貌など

骨格系:側弯、漏斗胸・鳩胸、細長い指(クモ状指)、先天性内反足、頭蓋骨縫合早期癒合による頭蓋変形、頚椎不安定症・頚椎骨奇形、関節過可動性、関節拘縮、扁平足など

皮膚:静脈血管が透けてみえる薄い皮膚、ヘルニア、創傷治癒遅延など

その他::Marfan症候群で高頻度にみられる水晶体偏位は認めない。気胸はMarfan症候群同様に認めるが、合併頻度は低いとされる。脊髄硬膜拡張もしばしば認める。頭蓋骨縫合早期癒合症や水頭症に伴うものを除けば、知的発達は正常とされる。

検査所見

胸腹部大動脈の拡張または解離は、LDS1・2では95%以上、SMAD3遺伝子変異による80%の患者で認められ、予後を考える上でも最も重要な所見である。拡張部位はマルファン症候群と同様にバルサルバ洞を含む大動脈基部がほとんどであるが、一部に基部拡張をほとんど伴わないまま解離にいたる症例があることに注意が必要である。一般的にマルファン症候群に比べて進行が早く、小さい大動脈径で解離を発症する、とされるが、個人差は大きく、かなり大きくなるまで解離しない症例も少なくない。
ただし、マルファン症候群では小児期の解離はきわめて稀であるのに対し、ロイス・ディーツ症候群では10歳以下の小児でも解離を発症する場合があることには注意すべきである。また、マルファン症候群では動脈病変は大動脈本幹に限定されるが、ロイス・ディーツ症候群では、総腸骨動脈、鎖骨下動脈、上腸間膜動脈、脳動脈、冠動脈などの分枝動脈にも及ぶため、全身血管のスクリーニングが必要である。動脈蛇行も特徴的であるが、特に頭頚部の動脈で高頻度に見られ、マルファン症候群との鑑別の上でも診断的価値が高い。動脈管開存・心室中核欠損、心房中隔欠損、大動脈二尖弁などの先天性心奇形の合併は当初より指摘されていたが、実際にはそれほど多くはない。僧帽弁逸脱は認めることもあるが、高度の閉鎖不全を伴うことは少ない。
SMAD3遺伝子変異によるLDS3では、早期発症の骨関節症が特徴的であり、若年発症の変形性骨関節症に伴う
指趾骨や脊椎骨の変形や骨折、骨端症、関節炎等を高頻度に認めるとされるが、小児期にはこれらの症状はほとんど認めない。

診断の際の留意点

臨床所見や家族歴より同疾患が疑われる場合には、遺伝学的検査で診断を確定する。
マルファン症候群同様、2016年4月より遺伝学的検査が保険収載されている。眼間開離や二分口蓋垂、動脈蛇行などの所見は、ロイス・ディーツ症候群でより高頻度で認めるが、マルファン症候群でも認める場合があることには注意する必要がある。
マルファン症候群と異なり、水晶体偏位は認めない。

治療

マルファン症候群同様、対症療法が基本であり、循環器科、形成外科、口腔外科、整形外科、遺伝科などを包含したチーム医療体制が望ましい。
治療方針も、基本的にはマルファン症候群に準ずるが、心血管系に対しては、より積極的な治療が推奨されている。
つまり、小児期より、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)あるいはβ遮断薬による降圧剤治療が推奨されており、ARBの投与量もマルファン症候群に比べ比較的大容量(ロサルタン 2.0 ㎎/㎏/日)が推奨されている。バルサルバ洞径40 ㎜以上、あるいは年間5 ㎜以上の基部径拡張を認めた場合には、動脈解離のリスクが高いと判断し、外科的修復を考慮する。
手術法としては、術後の抗凝固療法を必要としない自己弁温存による大動脈基部置換術が望ましい。

合併症

マルファン症候群と同様に、大動脈瘤解離による急性循環不全、大動脈弁閉鎖不全等による心不全をきたすことがある。
他の大動脈疾患に比べ、血管病変はより若年で生じ、大動脈拡張が軽度であっても解離にいたる傾向が指摘されている。
そのほか、脳動脈瘤、口蓋裂、斜視、頸椎不安定症、側彎症、内反足がある。妊娠・分娩時の子宮破裂の報告もあるが稀である。

予後

生命予後は大動脈病変に依存する。早期治療介入が成長後の大動脈合併症予後改善につながるとされている。

成人期以降の注意点

多くの小児患者が診断されないまま成人し、重篤な合併症である大動脈解離を発症して初めて診断にいたる、という例が少なくない。
血管病変は,乳幼児期には軽微でも、成長とともに顕著になる傾向があるため、初診時に認めなくても心エコー検査等で定期的にフォローする必要がある。
マルファン症候群同様、ロイス・ディーツ症候群の女性では、妊娠に伴い大動脈解離リスクが高くなる可能性がある。

参考文献

MacCarrick G, Black JH, 3rd, Bowdin S, et al: Loeys-Dietz syndrome: a primer for diagnosis and management. Genet Med 2014;16: 576-587.
森崎裕子, 森崎隆幸: Loeys-Dietz 症候群. 日本小児循環器学会雑誌 2014;30: 232-238.
森崎裕子: マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群. 日本小児科学会雑誌 2016;120: 1579-1586.

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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