ひふきんえん/たはつせいきんえん皮膚筋炎/多発性筋炎juvenile dermatomyositis, polymyositis; PM; DM
小児慢性疾患分類
- 疾患群6
- 膠原病
- 大分類1
- 膠原病疾患
- 細分類3
- 皮膚筋炎/多発性筋炎
病気・治療解説
概要
若年性皮膚筋炎(JDM)は16歳未満で発症し特徴的な皮疹と対称的筋力低下を主症状とする慢性炎症性疾患であり,皮膚および筋肉の症状が共に見られるものは古典的JDMとする.JDMは病態や予後などの違いから成人の皮膚筋炎(DM)とは分けて考えられている.典型的な皮膚所見を呈しながら明らかな筋症状を認めないもの若年発症臨床的無筋症性皮膚筋炎(juvenile-onset clinically amyopathic dermatomyositis,JCADM)とされ,これには検査上筋炎を示す所見を認める場合と認めない場合がある(臨床症状の項を参照).また炎症性筋炎を呈しながら皮膚症状を欠くものは若年性多発性筋炎(JPM)とされるが小児においてはまれである.
病因
原因不明の自己免疫性疾患と考えられ、HLAなどの遺伝的背景に感染症・予防接種・日光暴露・薬剤投与などの環境因子が関与して発症すると考えられている。若年性皮膚筋炎の初期変化として,血管壁への免疫グロブリン・membrane attack complex (C5-C9)の沈着と血管内皮傷害・血栓形成,およびその結果生じる支配領域の阻血性変化がある.これに引き続いて血管リモデリングが生じる.もう一つの初期変化は形質細胞様樹状細胞の活性化とこれが産生するType I-Interferon (IFN-a, b)によって引き起こされる.その結果,筋細胞におけるMHC Class I発現がERストレスの増強を伴って誘導され,筋細胞のアポトーシスを引き起こす.Type I-IFNはさらにマクロファージ・T細胞・B細胞を活性化させ,筋組織における炎症を増幅すると考えられる.
疫学
我が国におけるJDMの有病率は小児人口10万人に対し1.74人で女児が約70%を占める.発症年齢は成人まで含めた皮膚筋炎全体としてみると5-14歳にJDMのピークがある.
臨床症状
発熱・倦怠感などの非特異的症状をしばしば呈する.筋力低下は近位筋に強く,つまずきやすい,階段で転ぶようになった,今まで出来ていた運動(鉄棒・逆上がりなど)が出来なくなったなどの軽微なものから,寝たきり・寝返り不能など重度なものまである.侵される部位により嚥下困難・呼吸困難も呈する.慢性に進行すると著しい体重減少を見ることがある.紅斑は上眼瞼のヘリオトロープ疹,手背のゴットロン徴候,関節伸側(肘・膝)および頬部や上胸部などが好発部位であるが,手掌側に生じることもある(逆ゴットロン徴候).皮膚潰瘍は強い血管障害を示唆し,消化管や気管支などの潰瘍性病変の合併に注意を要する.また,全身浮腫やリポジストロフィーを呈することがある.爪郭皮膚の発赤や毛細血管の拡張・ループ形成・閉塞・出血・新生などは特異性はないが高頻度に見られる.まれに眼底に綿花状白斑などの異常所見を呈することがある.急性期を過ぎてから皮膚・皮下組織,筋・筋膜,骨・関節部などに石灰化を生じることがあり,治療の遅れや不十分さと関連すると言われている.
合併症として間質性肺炎,消化管潰瘍・出血,心電図異常(ブロック,期外収縮,ST-T変化など)・心筋障害・心膜炎,非破壊性関節炎などを認めることがある.典型的な皮膚症状と皮膚病理所見を呈しながら無治療で6ヶ月以上にわたり筋症状や筋原性酵素等の検査異常を生じないものを若年発症無筋症性皮膚筋炎(juvenile-onset amyopathic dermatomyositis, JADM)、明らかな筋症状は欠くが検査所見(生化学・筋電図・MRIなど)で筋疾患が示唆されるものは若年発症低筋症性皮膚筋炎(juvenile-onset hypomyopathic dermatomyosirtis, JHDM)とし、両者をあわせてJCADMとされている.
血液・生化学検査では筋原性酵素(CPK, AST, LDH, aldolase)上昇が有用であるが必ずしも上昇しない例もあることに注意が必要である.疾患特異性はないが,フォン・ヴィルブラント因子,FDP,ネオプテリン,可溶性IL-2Rはそれぞれ血管内皮障害・線溶系亢進,マクロファージ活性化,T細胞活性化の指標として病勢の把握に有用である.間質性肺炎の診断とモニタリングにはKL-6が有用である.抗核抗体陽性率は50-70%程度で特異性はない.筋炎特異的抗体の疾患特異性は高いが,抗Jo-1抗体をはじめとする抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体は小児ではまれである.抗p155/140抗体と抗MJ抗体が20-30%に見られる.抗CADM-140 (MDA5)抗体は間質性肺炎合併例で高率に見られ,高値例では急速進行性間質性肺炎を合併する傾向がある.抗Signal recognition particle (SRP)抗体は重症・治療抵抗性・再燃性筋炎,壊死性筋炎と関連する.これらの筋炎特異的自己抗体のうち一部のARS抗体(抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体)が現在保険収載されている.
画像・生理学的検査では筋炎の確認と生検部位確定のため,MRIが有用である.筋炎は脂肪抑制T2強調あるいはSTIR画像で高信号として認められるが,横紋筋融解症や感染性筋炎との鑑別はできない.筋電図では筋原性パターンを呈するが,疼痛を伴うため年少児では難しく,最近はMRIなどの普及によりあまり行われなくなっている.間質性肺炎の早期発見のため胸部CT,年長児では肺拡散能を含めた呼吸機能検査が必須である.
筋生検では皮膚筋炎においては筋膜下血管周囲への単核球の浸潤と,I型およびII型筋線維の壊死・貪食像,大小不同を認める.血管閉塞は血管周囲性細胞浸潤を伴わないこともある.多発性筋炎では,筋束筋線維間への細胞浸潤が主体である.皮膚生検では角質増加、基底角化細胞の空胞化、メラニン沈着、血管周囲リンパ球浸潤、真皮の浮腫増加、ムチン沈着、表皮肥厚もしくは表皮委縮などが見られる.浸潤細胞の主体は皮膚筋炎でCD4陽性細胞,多発性筋炎ではCD8陽性細胞と言われている.
鑑別診断として感染による筋炎,好酸球性筋炎などの非感染性筋炎,中条-西村症候群などの類似した皮疹を伴う自己炎症性疾患,薬剤誘発性ミオパチー,内分泌異常・先天代謝異常に伴うミオパチー,電解質異常に伴う筋症状,筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患,中枢性ないし末梢神経障害に伴う筋力低下が挙げられ,鑑別の難しい症例では積極的に筋生検を行う必要がある.
診断
治療
治療に当たっては,重症度と合併症の評価が必要である.急激に進行し血管病変の強いものは激症型と呼ばれる.嚥下障害・呼吸障害・皮膚潰瘍性病変・浮腫・消化管出血を来したものは重症として扱う.間質性肺炎合併は致死的になりうることから発症初期(診断時)や再燃時に必ず評価を行う.
治療の中心はステロイド剤であり、早期からの少量メトトレキサート(MTX) パルス療法の併用はステロイドの早期減量に有用である.不応例にはメチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法を行い,追加治療としてシクロスポリンA(CSA,ネオーラル®),タクロリムス(プログラフ®),シクロホスファミド(エンドキサン®)静注療法(IVCY),大量ガンマグロブリン療法などが選択される.重症・激症型にはmPSLパルス療法とIVCYで早急に炎症の沈静化を図る.間質性肺炎合併例ではmPSLパルス療法にCSAもしくはタクロリムスを併用し,急速進行性の場合には早期よりIVCYを加えた3剤併用を行う.間質性肺炎合併のないJADMの治療はステロイド軟膏のみで十分との報告があるが,JHDMの治療は古典的JDMに準じて行う.
予後
自然経過は非特異的症状を呈する前駆期,数日から数週の経過で筋力低下や発疹が生じる進行期の後に炎症が持続する数年を経て,時に機能障害を残して炎症が消退する.このような単周期性の経過を呈するものが41%,慢性化する例や多周期性の例が59%との報告もある.ステロイド剤導入以前のJDMの自然歴は1/3が死亡,1/3が重症後遺症,1/3が治癒というものであった.近年,治療の進歩により死亡率は数%まで低下したが.死亡例の多くは間質性肺炎によるものである.皮膚筋炎の多くは最終的に治療を中止できるが,石灰化などで重篤な機能障害を残す例があることから発症早期に十分な治療によって炎症を沈静化する必要がある.
参考文献
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