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かんがしゅ
肝芽腫Hepatoblastoma

小児慢性疾患分類

疾患群1
悪性新生物群
大分類5
固形腫瘍(中枢神経系腫瘍を除く。)
細分類33
肝芽腫

病気・治療解説

概念

本疾患は小児の肝にできる原発性悪性腫瘍と定義され、肝の腫瘍性病変の中で3割弱を占める過誤腫、血管腫、血管内皮腫、奇形腫などの良性腫瘍や、また、肝悪性腫瘍の中でも転移性腫瘍は本疾患には含めない。原発性のものは上皮性の小児肝がんと非上皮性腫瘍に分かれ、その9割以上は上皮性の小児肝がんである。上皮性の小児肝がんは小児悪性固形腫瘍の3~4%を占め、その8割以上は小児特有の肝芽腫で、一部が肝細胞癌(成人型肝癌)で、稀な腫瘍として肝内胆管癌がある。非上皮性肝悪性腫瘍としては、血管内皮腫、血管肉腫、未分化肉腫、横紋筋肉腫、悪性ラブドイド腫瘍、悪性リンパ腫などがあるがいづれも稀な腫瘍である。

疫学

肝芽腫は3歳までに発生することが多く、4歳未満の小児における肝悪性腫瘍の約90%が肝芽腫である。肝細胞癌は10才を越えた年長児に多いが、それ未満の小児にもみられる。肝芽腫は2:1で男児に多く、また、未熟児に発症リスクが高く、特に生下時体重が1500g未満の超未熟児に発症率が高い。肝芽腫の多くにβ―カテニンのエクソン3を含む領域の欠失か活性化変異を認め、β―カテニンが蓄積するFAP(家族性線種性大腸ポリポーシス)の家系にも好発する1,2。また、Beckwith-Wiedemann 症候群にも好発することが知られている。
一方、小児肝細胞癌はB型肝炎ウィルス感染が発生の危険因子で、また、様々な肝疾患を背景に発生し、チロシン血症、胆道閉鎖症、新生児肝炎、α1アンチトリプシン欠損症、I型糖原病、Fanconi貧血、Wilson病、長期の中心静脈栄養による肝障害などにともない肝細胞癌が発生することが報告されている3。小児の肝細胞癌の組織像は成人の肝細胞癌とほぼ同様で腫瘍細胞は肝細胞に類似するが、素地に肝硬変を伴う頻度は成人に比べて少ない。組織像と予後との関連に関しては肝細胞癌特殊型の線維性層板状癌(fibrolamellar carcinoma)の予後が一般の肝細胞癌に比して良好であるとする報告とがある4。

病因

病因は不明であり、肝芽腫の発生要因は明らかにでない。肝芽腫は、その9割近くにβ―カテニンのエクソン3を含む領域の欠失か活性化変異を認め、また、β―カテニンが蓄積するFAP(家族性線種性大腸ポリポーシス)の家系にも好発し、Wntシグナルの活性化が関与している1,2。肝細胞癌ではウイルス感染や肝疾患を背景に発症することがある。

診断

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治療

小児肝癌の臨床病期分類は、治療前の腫瘍進展度によるPRETEXT (Pretreatment Extent of Disease System)分類が用いられている5ことが多い。わが国では従来、日本小児外科学会の病期分類が用いられてきたが、現在は、PRETEXT分類が汎用されている。
PRETEXT分類 PRETEXT I:腫瘍は1つの肝区域に存在し、他の隣接する3区域に腫瘍の浸潤を認めない。
PRETEXT II:腫瘍は1−2の肝区域に存在し、他の隣接する2区域に腫瘍の浸潤を認めない。
PRETEXT III:腫瘍は2つ以上の隣接しない肝区域または3つの隣接する肝区域に存在し、他の1区域あるいは隣接しない2区域に腫瘍の浸潤を認めない。
PRETEXT IV:腫瘍は4つの区域に存在する。
これらに肝外性因子として、V(肝静脈浸潤),P(門脈浸潤),E(肝外進展),M(転移)R(腫瘍破裂)、F(多発性)を付記して、リスク分類を行う。
現在は、これらの腫瘍のうち肝外因子を伴わないPRETEXT I、II、IIIを標準リスク群、遠隔転移がないが肝外因子ある症例やPRETEXTIVを中間リスク群、遠隔転移例を高リスク群に層別して治療を行う。さらに、標準リスク群の中で、全摘した純高分化型腫瘍を低リスク腫瘍とし、術後化学療法を行わないこともある。
肝芽腫に有効な薬剤はシスプラチンであり、これを中心としたレジメンが用いられる6-8。標準リスク群であれば、PRETEXT I、IIであれば一期的切除も行われるが、現在ではシスプラチン単剤療法後に肝切除を行い、術後に2コースの化学療法を行う。中間リスク群は、初診時肝切除が困難な症例であり、術前化学療法としては、シスプラチンにアンソラサイクリン系抗がん剤を組み合わせるレジメンもしくは5−FUとビンクリスチンを組み合わせるレジメンを用いるが現在は肝移植の適応を早期に検討し、肝移植に対する準備も行い、術前4コース後に肝切除あるいは肝移植を行う。高リスク群でも同様のレジメンを用いられるが、最近は、高用量シスプラチンの有効性が示されている。肺転移に関しては、外科的切除も有効な手段であり、原発巣が肝移植の適応例では、遠隔転移巣が制御できた時点で肝移植を行うのが原則である。また、本邦では、肝動脈にカニュレーションを行い、肝動注塞栓化学療法のレジメンであるCATA-Lも示されている。
一方、肝細胞癌に治療は一定の治療法は確立していないため、肝芽腫に準じた治療法が選択されることが多く、また、年長児では成人に準じて肝動脈塞栓化学療法も用いられることがある。

予後

標準リスク群では、5年生存率が90%を越える成績を上げており、中間リスクは60−70%であったが、肝移植が保険適応となり治療成績は向上してきている。一方高リスク群では予後は未だに不良な症例も少なくない。肝細胞癌については、全摘可能例予後は期待できるが、切除不能例や遠隔転移例の予後は不良である6。

参考文献

1. Yamaoka H, Ohtsu K, Sueda T, et al: Diagnostic and prognostic impact of beta-catenin alterations in pediatric liver tumors. Oncol Rep 15:551-6, 2006
2. Koch A, Denkhaus D, Albrecht S, et al: Childhood hepatoblastomas frequently carry a mutated degradation targeting box of the beta-catenin gene. Cancer Res 59:269-73, 1999
3. Weinberg AG, Finegold MJ: Primary hepatic tumors of childhood. Hum Pathol 14:512-37, 1983
4. Haas JE, Muczynski KA, Krailo M, et al: Histopathology and prognosis in childhood hepatoblastoma and hepatocarcinoma. Cancer 64:1082-95, 1989
5. Brown J, Perilongo G, Shafford E, et al: Pretreatment prognostic factors for children with hepatoblastoma– results from the International Society of Paediatric Oncology (SIOP) study SIOPEL 1. Eur J Cancer 36:1418-25., 2000
6. Hishiki T, Matsunaga T, Sasaki F, et al: Outcome of hepatoblastomas treated using the Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor (JPLT) protocol-2: report from the JPLT. Pediatr Surg Int 27:1-8, 2011

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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