そうじょうぶんせつせいしきゅうたいこうかしょう巣状分節性糸球体硬化症Focal segmental glomerulosclerosis; FSGS
小児慢性疾患分類
- 疾患群2
- 慢性腎疾患
- 大分類1
- ネフローゼ症候群
- 細分類4
- 巣状分節性糸球体硬化症
病気・治療解説
概要
巣状分節性糸球体硬化は、巣状分節性の糸球体硬化病変という病理形態像を表現する用語であり、腎皮質深層(皮髄境界)の一部の糸球体(巣状)に分節状の硬化を認めることで特徴づけられる。病理学的には、糸球体数の50%以下に、分節性(50%/糸球体以下)の毛細血管虚脱(と基質の沈着を認めることの2つを満たすものと定義される。このような糸球体病変を呈する疾患の中に、臨床的に高度タンパク尿を伴い、ステロイド治療抵抗性で、徐々に腎機能障害が進展する疾患群が含まれていることが明らかにされ、独立した疾患概念であるFSGSとして確立された。
現在では、FSGSの中には組織学的に分節性の糸球体硬化病変を呈さない疾患群も含まれ、また、原因や病態が明らかな二次性のFSGSも加わり、複雑な疾患群により構築されている。
2004年にコロンビア分類が提唱され、FSGSは臨床的にタンパク尿、通常はネフローゼ症候群を呈し、光顕的には糸球体に巣状分節性の硬化病変を認め、電顕的に広範な糸球体上皮細胞の足突起の消失(effacement)を呈する臨床病理学的症候群と定義されている(1)。
病因
FSGSには、原因の明らかではない一次性(特発性)と、原因の明らかな二次性(続発性)の場合がある(表1)。ともに糸球体上皮細胞障害による糸球体障害により発症すると考えられており、podocyte diseaseまたはpodocytopathiesとしてとらえられている2)。
一次性の場合には、循環血液中の液性因子の関与が推測されている3)。種々のcirculating permeability factorとcirculating Permeability inhibitory factorとのバランスによりでタンパク尿がもたらされる機序が考えられている。
二次性の場合には、家族性/遺伝子変異、ウイルス感染、薬剤性、構造的・機能的な適応反応によるものが規定されている1)。遺伝子変異としては、多くが糸球体上皮細胞およびスリット隔膜関連タンパクに関連した遺伝子の異常で、糸球体上皮細胞の障害がFSGSに直接関与することを裏づけている。家族性発症の場合が多いが、孤発性の場合もあり、発症時期も先天性であるため小児期に多いが、成人発症もみられている。
ウイルス感染ではHIV感染者のいわゆるHIV関連腎症として、またパルボウイルスB19感染により、これらのウイルスは糸球体上皮細胞を標的とし、collapsing variantのFSGSが発症することが知られている。
薬剤性として、heroin、interferon-α、lithiumやpamidronateなどが知られている。また、構造的・機能的なネフロンの脱落後の適応反応により二次性FSGSが発症することが知られ、ネフロン数の減少に伴う糸球体過負荷や過濾過により、糸球体サイズの増大を伴いFSGSを発症すると考えられている。
二次性FSGSの場合は、同じ病態でもFSGSの進展を認めない症例も多く、これらの病態のとらえ方の標準化がなされておらずFSGSの扱いを複雑にしている。二次性FSGSは原因が明らかで、臨床病理学所見が一次性FSGSに類似している場合とするがその基準も明確ではない。
表1. FSGS の病因分類(文献1より)
病態
ネフローゼ症候群を呈するFSGSの病態としてpodocyte diseaseとも呼ばれ、糸球体上皮細胞障害により発症すると考えられている2)。糸球体上皮細胞障害の原因として、直接的な上皮細胞毒性と血行動態による過剰負荷やストレスが推測されている。障害された糸球体上皮細胞は、epithelial-mesenchymal transition(EMT)を含む細胞形質変化が誘導され細胞外基質との接着分子の発現の低下を伴い係蹄基底膜より剥離し尿中に脱落する4)。
FSGSでは、尿中に脱落する糸球体上皮細胞が有意に増加していることが示されている5)。ボウマン嚢腔内には上皮細胞の増生がみられ、この上皮細胞は形質が変化した糸球体上皮細胞なのか、ボウマン嚢上皮細胞なのかが議論されている。近年、ボウマン嚢上皮細胞の特徴も明らかにされつつあり、糸球体上皮細胞の前駆細胞になっている可能性も含めFSGSへのかかわりが注目されている6)。現在ではボウマン嚢腔内の増生細胞の多くがボウマン嚢上皮細胞由来であることが支持されてきている7)。
診断
FSGSの診断は腎生検で行う。病変糸球体は皮髄境界部にみられることが多い。非硬化部糸球体は光顕上ほとんど変化が認められないことから、腎生検で採取された腎組織が皮質浅層のみで不十分な場合には見逃される可能性があり、微小変化型ネフローゼ症候群との鑑別が時に困難である。蛍光抗体法では硬化部に一致してIgMやC3の沈着が認められることがあり、電顕上では足突起の癒合と足細胞の空胞状変性が認められる。
形態学的分類として、コロンビア分類(表2)が知られている1)。Collapsing variantは治療抵抗性で急速に腎機能が悪化することが多く、cellular variantは移植後再発が多いなど、組織亜型と臨床像との関連が報告されているが、同一患者で亜型が変化することもある。
表2. FSGS亜型のコロンビア分類
治療
FSGSの治療は、一次性と二次性とでは方針が異なる。一次性FSGSは、ネフローゼ症候群を呈することが多く、無治療の場合あるいはステロイド抵抗性の症例では、進行性腎障害の経過をたどり末期腎不全に至る危険が高い。
FSGSの治療法はまだ十分に確立された状況にないがネフローゼ症候群が持続する症例の予後が極めて不良であるのに対し、完全寛解や不完全寛解1型の症例は予後がよいことから、1日尿タンパク量1g未満を目指して積極的に治療を行う必要がある8)。
小児ではISKDC方式や日本小児腎臓病学会による小児特発性ネフローゼ症候群薬物治療ガイドラインが、成人では厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班、難治性ネフローゼ症候群分科会によるネフローゼ症候群診療指針として治療指針が報告されている9, 10)。小児ではMCNS以外が疑われる場合やステロイド抵抗性の場合に、成人では治療前に腎生検が行われFSGSの診断がなされる。
治療の主体は副腎皮質ステロイド療法であり、症状の強い症例にはパルス療法も考慮する。ステロイド抵抗例(4-8週間のステロイド治療において完全寛解や不完全寛解1型に至らない例)には、免疫抑制薬(サイクロスポリン、シクロホスファミド、ミゾリビンなど)を追加する。必要に応じ、タンパク尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。
高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬や小腸コレステロールトランスポーター阻害薬エゼチミブなどの投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシスも考慮する。必要により血漿交換療法も併用する。
リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)による新しい治療も報告されている。副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が長期間投与されることが多いため、副作用には細心の注意が必要である。
二次性の場合は原因や病態が明らかな場合を指すので、その原因や病態への対処が重要である。それぞれの原因や病態によって治療法が異なる。
予後
ネフローゼ症候群を呈する一次性FSGSにおける腎生存率は、5年で85.3%、10年で70.9%、15年で60.9%、20年で43.5%とほぼ直線的に低下している。
FSGSは予後の不良な疾患で、初期治療からステロイド抵抗性を呈する場合や頻回再発型からステロイド抵抗性に移行する場合もあるが、十分な治療が行われた場合には40-50%の症例で治療に反応して寛解する。完全寛解や不完全寛解1型が得られた場合の予後は良好で、腎生存率は20年で90%以上を維持している。
一次性FSGSでは腎移植後の再発率が15-55%といわれ、移植後早期から高度タンパク尿がみられ、移植腎機能の廃絶の原因となる11)。
参考文献
1.D’Agati VD, Fogo AB, Bruijn JA, Jennette JC. Pathologic classification of focal segmental glomerulosclerosis: a working proposal. Am J Kidney Dis 43:368-82, 2004
2.Barisoni L, Schnaper HW, Kopp JB. Advances in the biology and genetics of the podocytopathies: implications for diagnosis and therapy. Arch Pathol Lab Med 133:201-16, 2009
3.McCarthy ET, Sharma M, Savin VJ. Circulating permeability factors in idiopathic nephrotic syndrome and focal segmental glomerulosclerosis. Clin J Am Soc Nephrol 5:2115-21, 2010
4.Liu Y. New insights into epithelial-mesenchymal transition in kidney fibrosis. J Am Soc Nephrol 21:212-22, 2010
5.Hara M, Yanagihara T, Kihara I. Urinary podocytes in primary focal segmental glomerulosclerosis. Nephron 89:342-7, 2001
6.Ohse T, Pippin JW, Chang AM, et al. The enigmatic parietal epithelial cell is finally getting noticed: a review. Kidney Int76:1225-38, 2009
7.Suzuki T, Matsusaka T, Nakayama M, et al. Genetic podocyte lineage reveals progressive podocytopenia with parietal cell hyperplasia in a murine model of cellular/collapsing focal segmental glomerulosclerosis. Am J Pathol 174:1675-82, 2009
8.堺秀人,他:難治性ネフローゼ症候群(成人例)の診療指針:平成13年度までの調査研究より.日腎会誌44:751-761, 2002
9.日本小児腎臓病学会.小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013.診断と治療社:東京,2013
10.佐藤 博:巣状分節性糸球体硬化症.日腎会誌52:888-893, 2010
11.Shimizu A, Higo S, Fujita E, et al. Focal segmental glomerulosclerosis after renal transplantation. Clin Transplant 25 Suppl 23:6-14, 2011
12.日本腎臓学会 編.CKD診療ガイドライン2013. 東京医学社, 東京, 2013
13.日本腎臓学会 編.CKD診療ガイドライン2009. 東京医学社, 東京, 2009
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