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まんせいじんふぜん (じんしゅようによるものにかぎる。)
慢性腎不全(腎腫瘍によるものに限る。)Chronic renal failure due to renal tumour

小児慢性疾患分類

疾患群2
慢性腎疾患
大分類16
慢性腎不全
細分類36
慢性腎不全(腎腫瘍によるものに限る。)

病気・治療解説

概要

腎腫瘍は腎実質から発生する腫瘍であり,腎実質を構成する成分である尿細管や集合管などの上皮から発生する上皮性腫瘍と,平滑筋や脂肪など非上皮性成分から発生する非上皮性腫瘍および上皮性成分と非上皮性成分の混在するその他の腫瘍に分類される。小児にみられる腎腫瘍の約90%は,上皮成分と非上皮成分が混在する腎芽腫(Wilms腫瘍)である。
腫瘍の増大による腎実質の直接的な侵襲のみならず,治療としておこなう腫瘍摘出や腎全摘術,化学療法,放射線療法などの治療が腎機能の喪失や慢性腎不全の原因となる。

診断

血尿,腹痛,腹部膨満,腹部腫瘤などの臨床症状および画像検査所見によって診断を行う。
小児の腎機能評価はCKD診療ガイドラインによる準じる(2)。

腫瘍別各論: 1. 腎芽腫(nephroblastoma)はWilms腫瘍 (Wilms tumor)

腎芽腫(nephroblastoma)はWilms腫瘍 (Wilms tumor)ともよばれ最も頻度の高い腫瘍である。腎芽腫はアメリカでは小児癌で4番目に多く,年間に約500例が診断されている。わが国では年間40~60の登録例があり,実際にはさらに多いと見積もっても,その発生数は日米では大きな差がある。
わが国で従来から腎芽腫に腎横紋筋肉腫様腫瘍と腎明細胞肉腫を含めて論じられていたが,これらの腫瘍ではその病因 治療,予後とも大きく相違があるため,それぞれ別の腫瘍として取り扱うことになっている。

診断方法

1)臨床所見
腹部膨満が最も一般的な臨床症状である。そのほか腹痛や血尿,高血圧等が認められる。腫瘍被膜下出血をきたすと急激な腹部膨満,顔面蒼白(貧血)が出現する。血尿は12~25%にみられる。 内葉性病変(intralobar nephrogenic rest : ILNR)由来の腫瘍では,腎髄質深くに生じた腫瘍が腎孟・腎杯の粘膜に容易に浸潤するので,比較的早期に血尿をきたしやすい。一方,辺葉性(perilobar nephrogenic rest : PLNR)由来の腫瘍では血尿をきたしにくい。高血圧は,腎芽腫の約25%にみられ,レニン活性の高値による。
身体所見では,圧痛を伴わない平滑弾性硬の側腹部腫瘤で,正中線を越えることは少ない。また呼吸性移動はない。破裂をきたさないよう注意が必要である。

2)画像所見
小児腎腫瘍では,その他の腹部腫瘍との鑑別に画像検査は有用である。画像診断の第一の目的は腎原発の腫瘍の診断を確定することである。画像診断は,病理組織診断確定までの,外科的手術のアプローチや術前化学療法の必要性等,診療方針決定に利用されている。反対側腎の腫瘍や血管内腫瘍進展,肺転移の有無等の重要な情報が画像診断によって得られる。初診時にはまず腹部超音波検査を施行する。ドプラ超音波検査で腎血管,下大静脈への腫瘍進展の有無を確認することが重要である。腹部造影CTは 超音波検査で同定できなかったnephrogenic rests等の検出に有用である。肺転移では,CTが転移巣の同定に有用である。
一般臨床検査では,特異的な腫瘍マーカーはない。Denys-Drash症候群では蛋白尿に注意が必要である。後天的von Willebrand病が約8%にみられるため凝固系検査も注意が必要である。

治療・予後

わが国では,米国National Wilms Tumor Study Group (NWTS)方式の治療が行わることが多く,原則としてまず腫瘍摘出術を施行し,病期分類と病理診断から得た情報をもとに,リスクに応じた術後化学療法,放射線治療を施行する。
1996年に,日本Wilms腫瘍研究 (Japan Wilms Tumor Study: JWiTS) グループが発足され,NWTS方式に準じた治療プロトコールが作成されている。
1996-2005年にJWiTSに登録された腎芽腫症例の全体の5年生存率は91.1%,5年無再発生存率は82.0%と報告されている (3, 4)。病期別では,病期Ⅰ: 90.5%,Ⅱ: 92.2%,Ⅲ: 90.9%,Ⅳ: 86.7%,Ⅴ: 78.7%と報告されており,病期Ⅴ(両側性)は,多くの症例で両側腎摘を余儀なくされ,腎代替療法を要する例も多いことが明らかにされている。

腫瘍別各論: 2. 腎明細胞肉腫

腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney: CCSK)は当初アメリカのNational Wilms Tumor Study(NWTS)において腎芽腫に含まれていたが,起源は不明で,腎芽腫とは異なる腎腫瘍とされている。本腫瘍は1970年にKiddが骨転移傾向のある腎腫瘍としてはじめて報告した。その後1978年,Morganら,Marsdenら,さらにBeckwithらによって同年に別々に報告された。いずれの報告も骨転移傾向があり,予後不良な,肉腫様の非上皮性の腫瘍であることを指摘している。

診断と検査法

1)臨床所見
CCSKの発生母地は現在のところ不明である。歴史的には”bone metastasizing renal tumor of childhood”といわれていた。腎芽腫と異なる臨床的特徴としては,無虹彩や片側肥大を伴わないことがあげられる。家族性発生や症候群との関連性は報告されていない。2000年のNWTS-5の大規模な報告では,最も多い転移部位は,同側の腎門部リンパ節であった。リンパ節採取を施行した159例中46例(29%)に転移が認められている。骨転移は15%に認められた。再発部位では,骨,次いで肺,腹部局所,脳,軟部組織,肝の順に多い。軟部組織では,頭皮,硬膜,鼻咽頭,頸部,傍脊髄,腹壁,腋窩や眼窩といった比較的まれな部位への転移が注目される。

2)診断
小児腎腫瘍では,その他の腹部腫瘍との鑑別に画像検査は有用であるが,画像診断のみでCCSKの診断は困難であり,診断確定には病理組織診断が必要である。

治療と予後

NWTSでは,腎摘除後の腹部放射線治療と化学療法を推奨している。NWTS-5のプロトコールによる治療成績は,病期Ⅰ~Ⅳの全体の5年 event free生存率は約89%,CCSK患児の全生存率は約79%と報告されており,腎芽腫より低い。
長期生存例では,急性リンパ性白血病,慢性骨髄性白血病などの2次がんの発生にも注意が必要であり,また,晩期合併症として腎不全,尿細管壊死など腎障害,肝炎,卵巣機能不全などがみられている。

腫瘍別各論: 3. 腎横紋筋肉腫様腫瘍 (RTK)

腎横紋筋様肉腫(RTK)は,小児腎腫瘍の約2%を占める比較的まれな予後不良の腫瘍である。1978年,NWTSから腎芽腫の予後不良組織型として報告されたが,腫瘍の起源細胞はいまだ不詳である。現在では腎明細胞肉腫と同様に腎芽腫とは異なる腎腫瘍とされている。腎外発生例もあるが,これらの腎発生例との異同についてはいまだ議論がある。2001年のNWTSの報告では,集積した50例の年齢は,生後2日~3.5歳(平均11か月)である。腎芽腫の病期分布とは異なり,全RTKの75%は病期IIIと病期IVで発見されている。

診断

症状では,発熱が45.7%に,不機嫌が56.2%にみられている。ヘモグロビン9g/dL未満の貧血は,RTKの54.1%に,高カルシウム血症は26.1%に,蛋白尿は27.0%に,高血圧は70.6%にみられる。肉眼的血尿は59.4%(腎芽腫は18%)に,顕微鏡的血尿は76%(腎芽腫は24%)にみられ,腎芽腫に比べ血尿出現率は高い。ただし,血尿はしばしば間欠的であり,間欠期の尿検査では顕微鏡的血尿をきたさないことがあるので,注意を要する。血尿の出現率は,腎芽腫に比べいかなる病期においても高いが,病期が上がっても血尿出現率には有意差はないようである。肺,肝のほか,脳にも転移することが知られている,転移性脳腫瘍に加え,原発性脳腫瘍の出現頻度は高い。なかでも髄芽腫が多い。

腫瘍別各論: 4. 間葉芽腎腫 (mesoblastic nephroma:MN)

間葉芽腎腫(mesoblastic nephroma:MN)は,線維性問葉組織に由来する低悪性度の腎腫瘍と考えられている。MNの90%以上は1歳以内に診断され,その平均年齢は2か月とされる。まれに両側性に発生することもある。多くは腎門部に発生し,正常腎組織あるいは周囲組織との境界が不明瞭で,被膜を形成しないことが特徴である。組織学的には,①紡錘形腫瘍細胞が腎実質内に浸潤性に増殖し,糸球体,尿細管等を巻き込み,錯綜配列を示すclassic type,②楕円形核で分裂細胞に富む腫瘍細胞がびまん性に密に増殖するclassic type,③両者が不規則に混在するmixed typeに分類される。classic typeのMNでは,病理組織学的にも類似するinfantile fibrosarcomaと同様染色体転座t(12;15)(pl3;q25)によるETV6-NTRK3融合遺伝子が存在することが明らかにされ,分子生物学的診断が可能となった。高レニン血症や高カルシウム血症を伴うことがある。超音波検査により出生前診断例が増加している。一般に,外科的に完全摘除されれば予後は極めて良好である。しかし,病期IIIのcellular typeでは再発や肺等への血行性転移の報告があり,進展例では化学療法が推奨されている。

腫瘍別各論: 5. 腎細胞癌 (renal cell carcinoma)

腎細胞癌(renal cell carcinoma)は腎皮質近位尿細管起源の腎実質の上皮性悪性腫瘍である。多くは成人例で,小児例は腎細胞癌全体の3%未満を占めるにすぎない。15~19歳では腎悪性腫瘍の約2/3を占めている。全体の75%以上は5歳以降に発症する。若年者における腎細胞癌は,成人発症の腎細胞癌とは遺伝的および形態学的に異なることが明らかとなっている。小児や若年者の淡明細胞腎細胞癌または乳頭状腎細胞癌と診断されてきたもののなかに,Xp11.2転座/TEF3遺伝子融合に関連した腎細胞癌が相当数含まれていることが明らかとなっている。最近では,Xp11.2転座/TEF3遺伝子融合に関連した腎細胞癌は独立したサブセットとして取り扱われるようになっている。そのほか,von Hippel-Lindau病では染色体3P25-26に位置する腫瘍抑制遺伝子異常から,腎細胞癌を発生することがある。腎細胞癌は結節性硬化症との関連も示唆されている。家族性腎細胞癌は3番染色体が関与する遺伝性の染色体転座と関連している。腎細胞癌は鎌状赤血球症または神経芽腫との関連性も示唆されている。
腹部腫瘤,血尿腹痛の三主徴がすべてみられることは少ない。発熱食欲不振,体重減少,貧血等がみられる。腎細胞癌は,肺,リンパ節,肝,骨,副腎等に転移する。画像診断では腫瘍の石灰化や腎静脈,下大静脈内に腫瘍血栓がみられることがある。治療では,早期に根治的腎摘除術が必要である。化学療法や放射線療法に対して抵抗性がある。非根治的摘除術後の予後は明らかに不良である。

参考文献

1) 越永従道.腎腫瘍:日本小児腎臓病学会(編),小児腎臓病学.pp 366-374, 診断と治療社, 東京, 2012
2) 小児CKDの診断:日本腎臓学会(編), CKD診療ガイドライン2013. pp163-177; 東京医学社, 東京, 2013
3) Oue T, Fukuzawa M, Okita H, et al. Outcome of pediatric renal tumor treated using the Japan Wilms Tumor Study-1 (JWiTS-1) protocol: a report from the JWiTS group. Pediatr Surg Int 25: 923-9, 2009
4) 大植孝治, 福澤 正洋, 大喜多 肇, 他.日本ウィルムス腫瘍スタディグループ-1(JWiTS-1)登録症例の追跡調査報告.小児がん46: 349-358, 2009

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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