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こうりんししつこうたいしょうこうぐん
抗リン脂質抗体症候群anti-phospholipid antibody syndrome

小児慢性疾患分類

疾患群6
膠原病
大分類1
膠原病疾患
細分類5
抗リン脂質抗体症候群

病気・治療解説

概念

抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体の存在下に血栓傾向が増す疾患であり、小児では動静脈血栓症が問題となる。抗リン脂質抗体はリン脂質またはリン脂質と蛋白の複合体に結合する自己抗体の総称で、抗カルジオリピン抗体(aPL)や生物学的偽陽性などが含まれるが、臨床診断には抗カルジオリピンβ2-グリコプロテインⅠ(aPLβ2GPI)抗体もしくはループスアンチコアグラント(LA)の存在が重要である。
単独で発症した症例は原発性APSに、全身性エリテマトーデス(SLE)などリウマチ性疾患に伴う場合は続発性APSに分類される。APSの特殊型として、多臓器に微小血栓をきたし急速に多臓器不全に陥る、致死率が高い劇症型抗リン脂質抗体症候群(Catastrophic APS)がある。

病因

β2-グリコプロテインⅠ(β2GPI)と、ホスファチジルセリンが結合したプロトロンビンを対応抗原とする抗リン脂質抗体が血栓症と関連する主な自己抗体であることが明らかとなっている。β2GPIは陰性リン脂質依存性の凝固反応を抑制する分子であり、ホスファチジルセリンはβ2GPIと結合するリン脂質である。抗リン脂質抗体は常に血中に存在するにも関わらず、triggerがあって初めて血栓を形成する。
抗リン脂質抗体が血栓を形成する機序として、β2GPIを阻害することにより血栓傾向をきたすという仮説が想定されたが、近年β2GPI欠損者(ホモ変異個体)で血栓傾向がみられなかったことから、APSの血栓傾向をβ2GPIの機能不全で説明することが困難であると考えられている。その他、抗リン脂質抗体と血小板や内皮細胞がリン脂質結合蛋白を介して相互作用し、これらを活性化または障害することで血栓傾向が生じる機序や、抗リン脂質抗体が抗凝固因子を阻害する機序などが推定されている。
ホスファチジルセリンは、活性化した内皮細胞や血小板膜表面などに表出する分子であり、通常は細胞表面にでていない。このことがtriggerをきっかけに血栓傾向をきたす説明の1つとして注目されている

疫学

小児期APSにおける正確な罹患率や有病率に関する報告はない。小児APSでは、原発性APSがSLEなどに伴う続発性APSと同等数いると推定されているが、APS発症後にSLEと診断される症例が含まれている可能性がある。
成人のSLEでは3割程で抗リン脂質抗体が陽性で、1割にAPSを合併していると推定されており、小児SLEにおいても抗リン脂質抗体を有している症例は4割程みられる

臨床症状

APSでみられる血栓症の症状は、梗塞部位により多様であり、成人にみられる臨床症状の多くが小児例にも当てはまる。
静脈血栓では、深部静脈血栓症、網状皮疹、皮膚潰瘍、網脈静脈血栓症、Budd-Chiari症候群、肝酵素上昇、副腎機能低下などの症状を、動脈血栓では、四肢壊疽、脳梗塞、一過性脳虚血発作、網脈動脈血栓症、腎梗塞、腎血栓性微小血管障害、心筋梗塞、肝梗塞、腸間膜動脈血栓症、骨梗塞などの症状を呈する。血小板減少症がみられることがある。
成人の女性では習慣性流産を始めとする妊娠合併症が問題となり、血栓症とならび重要な臨床所見である。
数日から1カ月以内という短期間のうちに複数の臓器に微小血栓が多発し、急速に多臓器不全を呈する致死率の高い病態として、劇症型抗リン脂質抗体症候群(catastrophic antiphospholipid syndrome; CAPS)がある。血栓を生じる頻度の高い臓器は、腎・肺・中枢神経・心臓・皮膚である。臨床所見および検査所見はCAPS成人例と相違ないが、小児では成人と異なり、感染症をきっかけとして劇症型APSをきたす頻度が高く(小児60.9% vs 成人26.8%)、劇症型APSの症状がAPSとしての初発症状となる頻度が高い(小児86.6% vs 成人45.2%)。CAPSでは画像所見で血栓が明らかでない臓器障害においても、生検組織で微小血栓が証明されることがある。
動脈血栓を生じた症例は動脈血栓を再発し、静脈血栓を生じた症例は静脈に血栓が再発することが多い

診断

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治療

抗凝固薬および抗血小板薬による血栓症の予防が治療の中心となる。APSに対する免疫抑制療法の効果は確認されていない。びまん性肺胞出血を有するAPSやCAPSなどにおいて、免疫抑制療法を含めた集学的治療の効果が検討されている。小児APSに対する特有の治療方針はなく、成人APSの治療に準じて治療が行われている。
静脈血栓の予防には、アスピリンの効果が否定されており、ワルファリンが用いられる。
動脈血栓の予防に対しては抗血小板薬が用いられる。抗血小板薬として低用量アスピリンが用いられるが、前向き試験では効果が不十分との報告があり、成人領域では複数の抗血小板薬の併用や抗凝固薬の少量併用が必要との意見がある。
抗リン脂質抗体陽性例におけるアスピリンによる血栓症の一次予防効果に関しては、否定的なランダム化比較試験がある一方で、基礎疾患にSLEを有する症例などで有効性を示唆するメタアナリシスの報告がある

予後

小児APSにおける血栓症の再発率は、おおよそ6年の観察期間で19-29%であった。小児APS121人を含むコホート研究では、おおよそ6年間の観察で7%が死亡したことが報告されている

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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