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難治性血管奇形の発生起源と低酸素シグナル伝達機構の関与が明らかに

三重大学、大阪大学、慶應義塾大学、国立循環器病研究センター、神奈川県立こども医療センターの共同研究グループは4月16日、遺伝子変異によって引き起こされる難治性血管奇形について、その発生部位が胚発生段階の細胞の起源によって決定されること、そして、通常の酸素濃度下でも異常に活性化した低酸素シグナル伝達が病態形成に深く関与することを明らかにしたと発表しました。

脈管奇形は、血管やリンパ管の異常な増殖によって生じる先天性の疾患であり、特に顔や首の周辺に多く見られます。PIK3CA遺伝子の特定の変異(H1047R)が原因と言われていますが、現在の治療法では十分な効果が得られないことも多く、根本的な治療法の開発が急務となっています。

これまでの研究では、主に病変が形成された後のモデル生物や細胞を用いて病態のメカニズムが解析されてきましたが、ヒトの病態との直接的な関連性は十分に解明されていませんでした。そこで本研究では、病変が形成される初期段階に着目し、その発生機序を明らかにすることを目指しました。

今回、共同研究グループは、マウスを用いた実験において、PIK3CA(H1047R)遺伝子変異が特定の胚細胞系列で発現することで、特に治療が困難な頭頸部に見られる難治性脈管奇形が再現されることを確認しました。さらに、単一細胞RNA-seq解析という手法を用いて遺伝子の発現状況を詳細に調べた結果、通常の酸素分圧下においても、低酸素誘導因子であるHIF-1αの安定化や、血管やリンパ管の増殖を促進するVEGF-Aなどの増殖因子の発現が著しく増加していることが明らかになりました。また、ヒトの患者さんの検体においても、マウスモデルと同様にVEGF-AやHIF-1αが過剰に産生されていることが確認されました。

さらに、マウスモデルを用いた実験において、HIF-1αやVEGF-Aの働きを抑える薬剤を投与したところ、血管やリンパ管の奇形の進行が有意に抑制されることが示されました。この結果は、HIF-1αやVEGF-Aが難治性脈管奇形の新たな治療標的となる可能性を示唆しています。

以上の研究成果より、これまで不明であった難治性脈管奇形の根本的な原因となる分子レベルの仕組みを解明する上で重要な一歩となります。すでに抗腫瘍薬として臨床応用されているHIF-1α阻害薬やVEGF-A阻害薬が、脈管奇形の治療にも応用できるのではないかと期待されています。また、胚発生時の細胞の起源に関する今回の知見は、脈管奇形全体の病態のメカニズムや、なぜ頭頸部領域に脈管奇形が生じやすいのかといった解剖学的な特性を説明する上で、重要な手がかりになると考えられます。

出典
三重大学 プレスリリース

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