単核貪食細胞による腸管免疫応答の調節機構を解明、炎症性腸疾患や感染症に対する新たな治療開発に期待
理化学研究所の大国際共同研究グループは11月12日、腸管の免疫誘導組織であるパイエル板に分布する単核貪食細胞の分化が転写因子RelBとC/EBPαによって調節されることを発見したと発表しました。
パイエル板のsub-epithelial dome(SED)と呼ばれる領域に存在する単核貪食細胞は、栄養や水分の吸収効率を高めるため、広い表面積を持ち、食物や食物とともに侵入する外来微生物、さらには40兆個もの腸内細菌といった異物(抗原)に常にさらされています。腸管粘膜は、多くの感染症における病原性微生物の初期侵入経路でもあり、感染から個体を守る最前線と考えられます。そのため、腸管にはパイエル板に代表される腸管免疫組織が発達しています。
今回、研究グループは、正確かつ包括的な遺伝子発現プロファイリングが可能なデジタルRNA-seqを活用した詳細な遺伝子解析とwPGSA(weighted Parametric Gene Set Analysis)を通じて、転写因子RelBとC/EBPαがSEDの単核貪食細胞の主要な機能調節因子として特定。パイエル板におけるRelBとC/EBPαの発現様式を調べたところ、SEDの単核貪食細胞において発現することが観察されました。
また、単核貪食細胞特異的にRelBを欠損したマウス(RelBMP-KOマウス)におけるSEDの単核貪食細胞の機能を調べたところ、IL-22BPの発現が欠失しており、その結果RelBMP-KOマウスのFAEではIL-22BP欠損マウス同様に上皮細胞表面のフコシル化が亢進していることがわかりました。さらに、RelBMP-KOマウスのSEDの単核貪食細胞では、S100A4というタンパク質の発現が著しく低下することが観察されました。そこでRelBMP-KOマウスのFAEにおけるM細胞の数を調べた結果、RelBMP-KOマウスのFAEにおいて成熟M細胞の数が著しく減少していました。これらのことから、RelBMP-KOマウスにおいては、パイエル板への抗原取り込みが阻害され、抗原特異的な免疫応答の誘導が低下していることが示唆されるといいます。
C/EBPαは、SEDの単核貪食細胞の中でも特にリゾチームを発現する細胞集団において選択的に発現していることが観察されました。単核貪食細胞特異的にC/EBPαを欠損したマウス(C/EBPαMP-KOマウス)におけるSEDの単核貪食細胞の機能を調べた結果、リゾチームの発現が著しく低下することがわかりました。さらに、C/EBPαMP-KOマウスの病原性細菌感染に対する感受性を調べたところ、経口感染させたネズミチフス菌のパイエル板や腸間膜リンパ節への侵入が有意に増加することが観察されました。これらのことから、C/EBPαはSEDの単核貪食細胞の防御機能を調節することで感染防御の第一線として重要な役割を果たしていることがわかりました。
以上の研究成果より、パイエル板SEDの単核貪食細胞の機能調節因子としてRelBとC/EBPαが重要な役割を担っていることが明らかになりました。今回の発見は、単核貪食細胞を介した腸管免疫の調節機構に関する新たな知見となり、将来的には腸内免疫バランスの乱れによって引き起こされる炎症性腸疾患や感染症に対する新たな治療ターゲットとなることが期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、「Mucosal Immunology」オンライン版に10月14日付で掲載されました。
出典
理化学研究所