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Tolebrutinib、第III相HERCULES試験で再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)において障害進行を31%遅延

仏サノフィ社は9月20日、再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)の患者さんを対象とした第III相HERCULES試験において、tolebrutinibは6カ月持続する障害進行(CDP)の発現までの時間についてプラセボとの比較で31%の遅延を示したと発表しました。副次評価項目の解析では、障害改善(CDI)がみられた患者さんの割合はプラセボ群は5%、tolebrutinib群は10%、と約2倍でした。

多発性硬化症(指定難病13、MS)は、免疫介在性の慢性神経変性疾患で、不可逆的な障害が徐々に蓄積する疾患です。身体機能や認知機能が障害されることで、健康状態や生活の質(QOL)が徐々に低下し、患者さんのケアや余命に影響が及びます。多発性硬化症(MS)において、障害蓄積は大きなアンメットメディカルニーズですが、現在の治療法では、障害蓄積への関与が考えられる自然免疫に対しては、ほとんど対応できません。

Tolebrutinibは、開発段階にある脳透過性の経口ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬で、中枢神経系においてBリンパ球と疾患関連ミクログリアに対して作用を発現する濃度に到達します。

HERCULES試験の予備解析において、tolebrutinibの投与例で一部の有害事象の発現率に軽度上昇が認められました。多発性硬化症を対象とした本剤以外のBTK阻害薬の臨床試験でも報告されている副作用のひとつ肝酵素上昇(基準範囲上限の3倍超)の発現率は、tolebrutinib投与例4.1%に対しプラセボ群は1.6%でした。tolebrutinib群のうち少数例(0.5%)ではピークALT値が基準範囲上限の20倍を越える上昇がみられ、これらの上昇はいずれも投与開始から90日以内に認められました。

これら症例の肝酵素上昇は、1例を除く全例で医学的介入を行うことなく回復しました。試験計画書を改訂し、より厳格なモニタリングを導入する前に、tolebrutinib群の1例が肝移植を受け、術後合併症により死亡しましたが、現時点では、より頻繁なモニタリングが実施されており、肝臓の重篤な合併症は回避されているそうです。試験中に報告された他の死亡例については、試験責任医師により試験薬と関係がないと判断されました。死亡例の発生率はプラセボ群とtolebrutinib群で差がなく、いずれも0.3%でした。

クリーブランドクリニック神経学研究所副所長(オハイオ州クリーブランド)、HERCULES試験グローバル運営委員長のロバート・フォックス氏はプレスリリースにて、「二次性進行型多発性硬化症は、再発と関係なく徐々に進行する障害を特徴とする疾患で、有効な治療法がなく、大きなアンメットメディカルニーズがあります。HERCULES試験において、tolebrutinibが疾患の進行を引き起こす脳内での病変プロセスを標的とすることで、nrSPMS患者さんの障害進行を遅らせるだけでなく、一部の患者さんでは障害の改善も見られることが明確に示されました」と述べています。

また、サノフィ研究開発担当ヘッドのホーマン・アシュラフィアン氏は、「二次性進行型多発性硬化症の患者さんの病状は様々で、現時点では治療選択肢がない状況において、tolebrutinibは疾患の背景にある病理プロセスを標的とすることで、障害の進行を遅らせる可能性を示しました。私たちは、今回得られた結果について保健当局との協議を進めてまいります。来年には一次性進行型多発性硬化症を対象としたtolebrutinibの試験結果が得られる予定で、結果を楽しみにしています。本剤の試験に参加いただいた方々とご家族、ならびに医療従事者の方々に深く感謝いたします」と話しています。

同研究の成果は、9月20日に、デンマーク・コペンハーゲンで開催された2024年欧州多発性硬化症学会(ECTRIMS)のレイトブレイキング演題として発表されました。

また、再発型多発性硬化症(RMS)の患者さんを対象としてtolebrutinibを標準治療であるAubagio(teriflunomide、国内未承認薬)と比較した第III相無作為化二重盲検試験であるGEMINI1試験およびGEMINI2試験の結果も同日、発表されました。

同試験において、主要評価項目として検討した年間再発率はAubagioとの比較で有意差が認められず、主要評価項目を達成しませんでした。重要な副次評価項目である6カ月持続する障害悪化(CDW)の発現までの時間について併合解析を行ったところ、発現時期の29%遅延が認められました。再発型多発性硬化症(RMS)の患者さんの29%遅延は、再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)で認められたCDPの31%遅延と同様の結果としています。再発に対する統計的な有意差が認められないにもかかわらず、Aubagioと比較してtolebrutinibが障害蓄積に著しい影響を与えたことは、tolebrutinibが再発とは無関係に進行するくすぶり型の神経炎症に対処できる可能性を示唆しているそうです。

GEMINI1とGEMINI2試験の年間再発率は低く、2試験の併合解析ではAubagioとtolebrutinibに差が認められませんでした。これらの年間再発率は、8年ごとに約1回の再発がみられる頻度に相当します。

GEMINI1試験およびGEMINI2試験を併合した安全性データの予備解析では、tolebrutinib群とAubagio群で認められた有害事象は概ね同様でした。肝酵素上昇(基準範囲上限の3倍超)の発現率は、tolebrutinib投与例では5.6%、Aubagio投与例では6.3%ですが、この有害事象は多発性硬化症(MS)を対象とした他のBTK阻害薬でも報告されており、いずれも医療介入を行うことなく消失しました。tolebrutinib群のうち少数(0.5%)の被験者ではピークALT値が基準範囲上限の20倍を越える上昇がみられ、これらの上昇はいずれも投与開始から90日以内に認められました。死亡例の発生状況はAubagio群で0.2%、tolebrutinib群で0.1%と差がなく、試験責任医師により試験薬との関連はないと判断されました。

一次性進行型多発性硬化症を対象とする第III相PERSEUS試験は現在実施中で、試験結果は2025年下半期に得られる見込みです。

出典
サノフィ株式会社 プレスリリース

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