ぜんそくなどの慢性炎症疾患の原因となるタンパク質を特定
千葉大学らは12月12日、「組織常在性記憶CD4+T細胞(CD4+TRM細胞)」が肺や腸などの組織に長期間とどまるメカニズムと、炎症性サイトカインの持続的な産生は、遺伝子の働きを調節するタンパク質である転写因子Hepatic Leukemia Factor(HLF)によって制御されていることを特定したと発表しました。

私たちの体には、一度侵入したウイルスや細菌を記憶し、再感染した際に素早く反応する「記憶T細胞」という免疫細胞が存在します。この細胞は本来、感染から体を守る役割を持っていますが、組織に長く居座り続けることで、逆にアレルギーや自己免疫疾患などの慢性的な炎症を悪化させる原因になることが知られています。特に「組織常在性記憶CD4陽性T細胞(CD4+TRM細胞)」と呼ばれる細胞が、肺や腸などの臓器にとどまることで問題を引き起こすとされていますが、その詳しいメカニズムはこれまで分かっていませんでした。
今回、研究グループは、慢性炎症を起こしている組織に浸潤するCD4+TRM細胞の中でも炎症性CD4+TRM細胞において、遺伝子の働きを調節する転写因子である「HLF」が特異的に発現していることを発見しました。HLFは、細胞が組織に定着するために必要な因子の働きを強めたり、逆に組織から出ていくための因子の働きを抑えたりすることで、炎症性の細胞を組織に留める司令塔のような役割を果たしていることが明らかになりました。
HLFを持たないマウスを調べたところ、組織にとどまるCD4+TRM細胞の数が著しく減少し、炎症や組織の線維化が抑えられることが確認されました。また、ヒトの実際の慢性炎症性疾患の病変組織でも、HLFを持つCD4+TRM細胞が存在していることが確認されました。
以上の研究成果より、HLFが慢性炎症を悪化させる要因となる CD4+⁺TRM 細胞分化と炎症亢進に関わるタンパク質であることが明らかになりました。このことから、HLFを標的とすることで、ぜんそくや自己免疫疾患などの難治性の炎症に対する新しい治療法の開発につながる可能性が期待されます。
なお、同研究の成果は、国際科学誌「Science」に12月11日付で掲載されました。
