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ヒトiPS細胞から胸腺上皮細胞の作製に成功、T細胞再生の新たな道を開く

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月25日、ヒトのiPS細胞から成熟した胸腺上皮細胞を試験管内で分化誘導する方法を初めて開発したと発表しました。

胸腺は、病原体やがんなどのさまざまな異物に対する免疫応答の中心となるT細胞を生み出す、私たちの体にとって非常に重要な臓器です。T細胞は胸腺の皮質と髄質に存在する特別な上皮細胞と相互作用しながら、自身を攻撃しない、多様なナイーブT細胞へと育っていきます。先天的に胸腺がないと重い免疫不全に陥り、年齢とともに胸腺の機能が衰えることは、免疫力の低下の一因とも考えられています。これまで、ヒトiPS細胞やES細胞から、多様なT細胞の分化を支える成熟した胸腺上皮細胞を試験管内で作る方法は確立されていませんでした。

今回、研究グループは、胸腺組織が発達する過程のシグナル伝達経路を模倣し、ビタミンAの代謝産物であるレチノイン酸の量を厳密に調整することで、ヒトiPS細胞から実際の胸腺に似た皮質および髄質の多様な胸腺上皮細胞の作製に成功しました。作製されたiTECは、T細胞に抗原を提示する皮質上皮細胞や、自己免疫疾患を防ぐ自己寛容に関わる髄質上皮細胞など、様々なタイプの細胞集団を含んでいることが確認されました。

画像はリリースより

さらに、iTECとヒトT前駆細胞を一緒に培養して人工的に胸腺組織(オルガノイド)を作ったところ、さまざまな抗原に反応できる多様なナイーブT細胞へと効率よく分化することが示されました。これらのナイーブT細胞は、ヘルパーT細胞(CD4陽性)やキラーT細胞(CD8陽性)といった、免疫応答の中心となる細胞系列に属し、多様なT細胞受容体を持っていることも確認されました。特に、これまで試験管内での誘導が技術的に難しいとされてきたCD4陽性T細胞の分化が可能になったことは、大きな進歩です。また、T前駆細胞との共培養によって、自己寛容に必要な髄質上皮細胞の成熟が促され、自己抗原を発現する細胞も現れることが分かりました。

画像はリリースより

今後、この分化誘導培養系は、ヒト胸腺の発生メカニズムや、小児先天性無胸腺症、胸腺低形成症候群といった疾患の詳細なメカニズムを解明するための新たな研究ツールとなると考えられています。また、重度の免疫不全や、加齢、がん治療などによるT細胞減少を克服し、T細胞の免疫システムを再構築するための、新しい医療応用技術の基盤となることが期待されています。

なお、同研究の成果は、国際学術誌「Nature Communications」オンライン版に8月25日付で掲載されました。

出典 
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) プレスリリース

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