人工甘味料ソルビトール摂取による腸炎悪化の仕組みを解明
北里大学と慶應義塾大学は7月8日、人工甘味料として広く使用される糖アルコール「ソルビトール」の摂取が、腸内細菌およびその代謝物を介して腸管の炎症性免疫応答を活性化し、大腸炎を悪化させることを明らかにしたと発表しました。
ソルビトールは、発酵性の糖類であるFODMAP(フォドマップ)の一種であり、消化管で吸収されにくい性質があります。このため、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)の患者さんにおいては、症状を悪化させる可能性が以前から指摘されていました。しかし、ソルビトールそのものが腸内で炎症を誘導するのか、また腸内細菌や免疫細胞がどう関わるのかについては、具体的なメカニズムが不明でした。
今回の研究では、マウスを用いた実験を通じて、ソルビトールを摂取すると、実験的大腸炎が悪化することが判明しました。さらに、ソルビトールを継続的に摂取すると、大腸内でIL-1βなどの炎症性サイトカインの産生や炎症性のM1型マクロファージの分化が促進されていることも分かりました。この炎症の悪化は、抗菌剤の投与によって消失したことから、腸内細菌叢に依存していることが示唆されました。

また、ソルビトール摂取により腸内細菌叢の構成が変化し、特にPrevotellaceae細菌の割合が増加していました。これらのPrevotellaceae細菌は、ソルビトールによって増殖が促進されることが確認されています。加えて、ソルビトール摂取群では糞便中のトリプタミン濃度が有意に上昇しており、このトリプタミンを添加した細胞実験において、M1型マクロファージへの分化とIL-1βの発現増加を誘導することが確認されました。
これにより、ソルビトールの摂取がPrevotellaceaeなどの特定の腸内細菌の増殖を促し、それに伴って腸内でのトリプタミン産生がを増加させます、。このトリプタミンがM1型マクロファージへの分極を促進するとともに、IL-1βの発現を高めることで腸の炎症を悪化させるという「腸内細菌-代謝物-免疫」の新たな経路が特定されました。

以上の研究成果より、FODMAPを制限する「低FODMAP食」が、炎症性腸疾患(IBD)の急性期における症状緩和に寄与する可能性を支持することが分かりました。一方で、FODMAPの中には腸炎の抑制に関与する糖類も報告されており、特に水溶性食物繊維などは腸内細菌叢の多様性や機能維持に貢献する可能性があるため、その機能的側面を考慮した食事設計も重要とされています。この成果は、個別の病状や腸内環境に応じた「個別化栄養療法(precision nutrition)」や、腸内細菌を標的とした新たな治療戦略の発展に貢献することが期待されています。
なお、同研究の成果は、「iScience」に6月19日付で掲載されました。