開発中の治療薬Eenpatoran、活動性ループス皮疹を有する全身性エリテマトーデス(SLE)および皮膚エリテマトーデス(CLE)患者さんにおける良好なデータを発表
独メルク社は5月21日、治験中の新規経口TLR7/8阻害剤であるenpatoranについて良好なデータが得られ、活動性ループス皮疹を有する皮膚エリテマトーデス(CLE)および全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんにおける臨床的に意味のある疾患活動性の低下が示されたと発表しました。
エリテマトーデスは、身体のさまざまな臓器に影響を及ぼす自己免疫疾患であり、その皮膚症状は患者に身体的、精神的な苦痛をもたらすことがあります。この疾患の病態には、自然免疫系の受容体であるToll様受容体(TLR)の活性化が関与していると考えられています。ループスには複数の種類があり、全身性エリテマトーデス(指定難病49、SLE)および皮膚エリテマトーデス(CLE)が主な2つの病型です。
enpatoranは、全身性エリテマトーデス(SLE)および皮膚エリテマトーデス(CLE)の治療を目的として開発中である、TLR7とTLR8を阻害する作用機序を持つ経口薬です。
今回の研究は、国際多施設共同で実施されたランダム化プラセボ対照二重盲検試験でありenpatoranの有効性と安全性を評価することを目的としました。試験は2つのコホートで構成され、コホートAでは活動性のループス皮疹を有する皮膚エリテマトーデス(CLE)または全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんを対象に、皮膚症状の疾患活動性評価指標であるCLASI-Aスコアを用いてenpatoranの効果を評価しました。コホートBでは、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんの全身の疾患活動性に対する効果をBICLA奏効率を用いて評価しました。患者さんには、enpatoranの3つの異なる用量(25mg、50mg、100mg)またはプラセボが1日2回、24週間にわたり投与されました。
試験の結果、コホートAは主要評価項目を達成しました。enpatoranを投与された群では、16週目の時点でプラセボ群と比較して臨床的に意味のあるCLASI-Aスコアの改善が認められました。具体的には、enpatoran投与群の最大91.3%が皮膚症状の50%改善を示すCLASI-50を達成したのに対し、プラセボ群では38.5%でした。また、70%の改善を示すCLASI-70の達成率は、enpatoran投与群で最大60.9%、プラセボ群では11.5%でした。さらに、Eenpatoran投与により、疾患活動性に関連するインターフェロン遺伝子シグネチャーが投与後2週目から速やかに低下し、その効果は24週目まで持続することが確認されました。
一方で、コホートBにおいては、主要評価項目として設定された用量反応性は達成されませんでした。しかし、事前に規定されたサブグループの解析では、有望な有効性の結果が示されたと報告されています。試験期間中の安全性プロファイルは良好であることが確認されました。
以上の研究成果は、enpatoranがループス皮疹を有する患者さんにおいて臨床的に意味のある有効性を示し、TLR7およびTLR8の阻害が全身性エリテマトーデス(SLE)および皮膚エリテマトーデス(CLE)の新たな治療アプローチとなる可能性を示唆するものです。enpatoranのユニークな作用機序は、疾患に対して鍵となるこれらのドライバー因子を阻害することにより、体内免疫反応を維持しながら治療効果を高めることを目的としており、既存のループス治療の限界を克服する可能性があります。
メルク社のヘルスケア・ビジネスの神経・免疫疾患開発ユニットヘッドJan Klatt氏はプレスリリースにて、「ループスは日常生活を送る上で困難をもたらすことがあります。ループス皮疹として知られる皮膚症状は、しばしば持続的なかゆみを伴い、瘢痕や脱毛を引き起こすことがあります。これは、ループス患者の身体的、精神的、社会的な健康に大きな影響を及ぼす可能性があり、早急に効果的な治療法が必要であることを強調しています。WILLOW試験の結果により、ループス皮疹を有する患者において臨床的に意味のある有効性と良好な安全性プロファイルが確認され、これらの結果に基づき、enpatoranの国際共同第III相試験について規制当局との協議を進めています」と述べています。
なお、同研究の成果は、5月21日から24日にトロントで開催された第16回SLE国際会議(LUPUS 2025)にて発表されました。