潰瘍性大腸炎、発症約5年前には血液検査で予測が可能か
東北大学は5月19日、潰瘍性大腸炎の発症が血液検査によって数年前から予測可能であることを、日本人約8万人のコホートを対象とした研究で初めて実証したと発表しました。
潰瘍性大腸炎(UC、指定難病97)は、腹痛や血便などを主な症状とし、比較的若年層に発症することが多い疾患で、国内の患者数は増加傾向にあります。症状が患者さんのライフイベントに大きく影響を及ぼすため早期診断と治療が重要とされますが、発症を事前に予測する方法は確立されていませんでした。診断には内視鏡検査が不可欠ですが、これが検査の負担となり診断の遅れに繋がることも課題でした。研究グループは以前、特定の自己抗体が潰瘍性大腸炎の診断に有用であることを報告していましたが、日本人においてこれらの抗体が発症予測に利用できるかは未検証でした。
今回、研究グループは、潰瘍性大腸炎の発症リスク因子を明らかにすることを目的とし、東北メディカル・メガバンク計画で収集された8万人を超える地域住民のコホートデータを活用しました。この中から将来的に潰瘍性大腸炎を発症した42人の集団(診断前UC群)を特定し、発症前の健康な状態の際に採取された血液検体や生活習慣に関する情報を解析しました。特に、血液中の自己抗体である抗EPCR抗体と抗インテグリンαvβ6抗体の量や生活習慣との関連が検討されました。

解析の結果、診断前UC群では、抗EPCR抗体と抗インテグリンαvβ6抗体の血中濃度が、潰瘍性大腸炎と診断される約5年前に既に上昇していることが明らかになりました。診断約5年前の時点で、診断前UC群の5割以上でこれらの抗体が陽性を示し、その抗体価は健常者と比較して高い値でした。具体的には、抗インテグリンαvβ6抗体は52.5%、抗EPCR抗体は51.4%が陽性でした。これら2つの抗体を組み合わせることで、予測の精度がさらに向上することも示されました。また、これらの発症前の自己抗体は、診断時期や将来的な疾患の重症度との関連も示唆されました。生活習慣の解析では、「不眠」が潰瘍性大腸炎の発症リスク因子であることも特定されています。

以上の研究成果より、これらの自己抗体の測定によって潰瘍性大腸炎の発症リスクを把握することが、疾患の早期発見や発症予防に繋がる可能性があると期待されます。今後は、自己抗体を用いた潰瘍性大腸炎の早期発見やスクリーニング方法に関するより詳細な検討、ならびに不眠を含む生活習慣の改善が発症予防に効果をもたらすかどうかの検証が必要であるとしています。
なお、同研究の成果は、「Journal of Gastroenterology」オンライン版に5月15日付で掲載されました。