【米国】進行リスクの高い原発性IgA腎症に対する新規治療薬atrasentan、FDAの迅速承認を取得
スイスのノバルティス社は4月3日、米国食品医薬品局(FDA)により、強力かつ選択的エンドセリンA(ETA)受容体拮抗薬のatrasentanが、進行リスクの高い成人原発性IgA腎症患者さんの蛋白尿減少に対する適応で迅速承認されたと発表しました。
IgA腎症(指定難病66)は、免疫系が腎臓を攻撃することで、しばしば糸球体の炎症と蛋白尿を引き起こす、稀な腎疾患です。糸球体は、腎臓において血液をろ過する小さな血管の集まりです。米国では年間で100万人あたり約13人が診断され、最も一般的な自己免疫性腎疾患のひとつです。
しかし、患者さんによって疾患の経過は異なり、持続的な蛋白尿を有する患者さんの最大50%が、診断から10~20年以内に腎不全へと進行し、透析や腎移植が必要となることが多いとされています。治療への反応も個人差が大きいため、異なる作用機序を持つ効果的な標的治療薬の登場は、医師が患者さんに最適な治療を選択する上で重要な意味を持ちます。
atrasentanは、1日1回投与の非ステロイド性経口薬であり、SGLT2阻害薬との併用や、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬を含む既存の支持療法に加えて使用することが可能です。
今回の迅速承認は、第III相ALIGN試験の事前に規定された中間解析結果に基づいたものです。この試験では、36週時点でのプラセボと比較した蛋白尿の減少が評価されました。ただし、atrasentanがIgA腎症患者さんの腎機能低下を遅らせるかどうかは、現時点では確立されていません。今後のIgA腎症に対する継続的な承認には、現在進行中の第III相ALIGN試験において、136週時点での推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を指標として、atrasentanが疾患の進行を遅らせるという臨床的な有益性の検証が必要となります。eGFRに関するデータは2026年に得られる見込みです。
ALIGN試験の治験責任医師であり、Stanford University Medical CenterのGlomerular Disease Centerの責任者兼同大学医学部腎臓内科教授であるRichard Lafayette先生氏はプレスリリースにて、「今回の承認はIgA腎症患者にとって重要な節目であり、REMS(リスク評価・軽減戦略)を必要とせず、既存の治療計画に容易に組み込める新たな選択肢となります。atrasentanは、IgA腎症の主要なリスク因子である蛋白尿を効果的に減少させる選択的ETA受容体拮抗薬です。早期かつ決定的な治療は、腎不全に進行することが多い患者さんの予後を改善する上で非常に重要です」と述べています。
患者団体であるIgA Nephropathy Foundationの理事兼共同設立者であるBonnie Schneider氏は、「私の息子は、治療薬が承認されるずっと前にIgA腎症と診断されました。複数の治療選択肢があることは、患者とその家族にとって非常に心強いことです。atrasentanの承認によって治療の選択肢が増え、患者さんごとに大きく影響が異なる可能性のあるこの疾患に対して、それぞれの状況に合わせた治療の機会が広がります」と述べています。