特発性間質性肺炎(IIP)の新たな死亡リスクとして便秘症を同定
浜松医科大学の研究グループは11月11日、浜松医科大学の特発性間質性肺炎(IIP)患者さんの433名の診療録データを解析し、便秘症が独立した死亡リスク因子であることを同定したと発表しました。
特発性間質性肺炎(指定難病85、IIP)は、進行性の肺線維化を来す原因不明の難治性疾患です。治療反応性や進行速度の異なるさまざまなフェノタイプで構成されており、生命予後は患者さんごとに大きく異なるため、特発性間質性肺炎(IIP)患者さんの診療においては、患者さんの疾患進行リスクや死亡リスクに応じたマネージメントが重要です。特発性間質性肺炎(IIP)の疾患フェノタイプは最も重要な予後因子ですが、そのほかに、性別(Gender)、年齢(Age)、肺機能(Physiology)に基づいたGAPインデックスやILD-GAPインデックスなども用いられます。
近年、便秘は、心疾患や腎疾患などのさまざまな慢性疾患における死亡リスクとして知られていますが、詳細なメカニズムは明らかになっていませんでした。しかし、便秘に伴う腸内細菌叢の乱れが全身免疫に影響することが一因と考えられています。呼吸器疾患においては、便秘が喘息の発症に関与することや、肺癌における免疫チェックポイント阻害剤の治療効果に影響することなどが報告されています。しかし、特発性間質性肺炎(IIP)における便秘の影響に関してはこれまで報告がありません。
今回、研究グループは、2004年9月から2021年6月に浜松医科大学で診断された特発性間質性肺炎(IIP)患者さんの433名の診療録データを収集し、解析を行いました。観察期間中の便秘の発症を時間依存性変数として扱い、周辺構造モデル(MSM)という統計手法を用いて、年齢、性別、body mass index、特発性間質性肺炎(IIP)への治療内容(ステロイド、免疫抑制剤、抗線維化薬)、肺機能(%FVC、%DLCO)で重みづけを行った上で、便秘と全生存期間(OS)の関連を解析。観察機関中、433名のうち、238名の患者さんが便秘を発症しました。
その結果、便秘を発症した患者さんは有意にOSが不良でした(ハザード比2.374、95%信頼区間1.924–2.928、p<0.001)。サブグループ解析では、特発性間質性肺炎(IIP)のフェノタイプ(特発性肺線維症[IPF]またはnon-IPF)、GAPインデックスやILD-GAPインデックスに関わらず、便秘は有意な死亡リスク因子でした。
以上の研究成果より、便秘症が独立した死亡リスク因子であることを同定しました。特発性間質性肺炎(IIP)の新たな治療戦略として、便秘の予防や積極的な治療介入の有用性を検証する研究への発展が期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、「Respiratory Investigation」に10月29日付で掲載されました。