多発性嚢胞腎(PKD)の新しい原因遺伝子CFAP47を発見
東京科学大学は11月1日、日本国内27施設の協力を得て、家族歴がない成人の多発性嚢胞腎(PKD)患者さん118名を対象に網羅的遺伝子解析を実施し、このうち原因となる遺伝子変異が同定されなかった47名に対して全ゲノムシークエンスを行い、3名の男性患者さんに共通してCFAP47というX染色体遺伝子に病的変異があることを発見したと発表しました。また、CFAP47ノックアウトマウスの腎臓を観察したところ、嚢胞状の尿細管拡張が確認され、CFAP47が多発性嚢胞腎(PKD)の新しい原因遺伝子であることを示しました。
常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、主にPKD1とPKD2の2つの遺伝子変異が原因で発症し、大半で嚢胞腎の家族歴がある特徴的な画像所見を呈する疾患です。常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、成人期に嚢胞形成が確認され、嚢胞の増大と腎機能の低下を特徴します。患者さんの約85〜90%にPKD1変異が見られ、約10〜15%にPKD2変異が見られます。
遺伝子解析技術の進展により、常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)の原因としてGANAB,IFT140,ALG5,ALG9,DNAJB11などいくつかの新しい遺伝子が同定され、これらは常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)の約7%を占めると考えられています。一方で常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)と考えられた成人患者さんのうち、家族歴を持たない患者さんが約10%程度存在します。
今回、研究グループは、家族歴のない常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者さん118名を対象に網羅的遺伝子解析を実施。このうち原因不明であった患者さん47名に対する全ゲノムシークエンスを実施した結果、3名の男性患者さんに共通してX染色体遺伝子CFAP47(Cilia And Flagella Associated Protein 47)に病的変異が同定されました。
3名の男性患者さんの年齢は70.7±11.4歳(平均±SD)で、腎機能は推定糸球体濾過率(eGFR)で平均31.8±18.8ml/min/1.73m²と低下が確認されました。また、腎臓の平均容積は668.3±71.3mLで、男性の正常な容積404mLと比較して拡大していることがわかりました。
研究グループは、ヒト腎臓組織を用いて、嚢胞の発生と深く関わりのある尿細管上皮細胞の繊毛(cilia)にCFAP47が発現していることも確認。さらに、中国復旦大学ゲノム医学研究所との共同研究により、CFAP47ノックアウトマウスの腎臓を観察したところ、尿細管上皮細胞の空胞変性や、一部癒合による嚢胞状の尿細管拡張が確認されました。これによりCFAP47が多発性嚢胞腎(PKD)の原因遺伝子であることが明らかになりました。
以上の研究成果より、CFAP47は新たに発見された多発性嚢胞腎(PKD)の原因遺伝子であり、未診断症例の中に本疾患が含まれる可能性があること、また、これまでX染色体遺伝子が原因となる多発性嚢胞腎(PKD)の報告は非常に稀でありが明らかになりました。今後はCFAP47の生理的作用や嚢胞形成に関わる病態メカニズムの詳細な解明が、創薬ターゲットの発見に向けた重要な課題であると考えられます。
なお、同研究の成果は、「Kidney International Reports」オンライン版に10月29日付で掲載されました。