ICKが網膜色素変性症を含む繊毛病の治療法開発に繋がる可能性
大阪大学蛋白質研究所の研究グループは9月19日、大阪大学超高圧電子顕微鏡センターと東京大学との共同研究により、指定難病の網膜色素変性症を含む繊毛病の治療薬候補として既存薬である線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体阻害剤を同定するとともに、治療標的候補タンパク質も発見したと発表しました。
繊毛は、ほとんどすべての細胞に存在する微小管を軸とした突起状の構造物で、回転運動により水流を生み出す運動性の繊毛や、細胞外からのシグナルを受け取るアンテナとして機能する一次繊毛があります。繊毛の機能異常が起こると、網膜色素変性症、不妊、嚢胞腎、肥満、多指症、水頭症といった繊毛病と呼ばれるさまざまな疾患を引き起こすことが知られています。繊毛病の病態機構は不明な点も多く、有効的な治療法も確立していません。
今回、研究グループは、タンパク質リン酸化酵素のICKに加えて、目の網膜視細胞で発現するタンパク質リン酸化酵素であるMAKも繊毛の先端でタンパク質輸送方向の切り替えを制御することを新たに見出しました。
ヒトにおいてMAK遺伝子は網膜色素変性症の原因遺伝子のひとつになっていることが知られており、MAK欠損(KO)マウスは網膜色素変性症の良いモデルとして知られています。
MAKKOマウスの網膜視細胞変性を、視細胞において発現するICKを活性化することによって回復できるのではないかと着想し、ICKをMAKKOマウスの網膜において発現させると、網膜変性が抑制されました。また、MAKKOマウスにFGF受容体(FGFR)阻害剤を投与し、ICKを活性化させると、コントロール投与群に比べて視細胞の変性が組織学的(視細胞層の厚み)にも機能的(網膜電図)にも有意に抑制されました。
さらに、MAKの欠損により繊毛内タンパク質輸送の異常を来すことから、MAKの変異以外が原因となる繊毛内タンパク質輸送の異常を示す繊毛病に対してもICKの活性化が有効ではないかと考察。培養細胞において、繊毛のダイニンモーター構成因子でヒト繊毛病原因遺伝子として知られるDync2li1をノックダウンにより発現低下させると繊毛の形成や機能の異常が見られますが、ICKの発現やFGFR阻害剤による処理により、繊毛の異常が改善されたとしています。
以上の研究成果より、ICKが繊毛病の治療標的候補となることが示され、繊毛病の治療法開発に繋がる可能性を見出しました。今後、既存のFGF受容体阻害剤(ICKを活性化)の適応や新たなICKの活性化剤の開発によって、根本的な治療法のない繊毛病の治療に繋がることが期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、科学誌「Life Science Alliance」に9月18日付で掲載されました。