非定型的ゴーハム病の原因はガスダーミンD遺伝子のミスセンス変異と同定
東京医科歯科大学と佐久医療センターと東京理科大学は7月3日、非定型的ゴーハム病の原因が、ガスダーミンD遺伝子のミスセンス変異によることをつきとめたと発表しました。
ゴーハム病は、小児や若者に多く発症し、骨消失病変を特徴とする難治性の疾患です。リンパ管腫を伴いやすいことから、リンパ管腫症とともに指定難病に登録されています。現在、病因・病態は明らかにされていません。遺伝的要因は関与しないといわれてきましたが、最近、ゴーハム病にはいくつかの病型があることも指摘されるようになり、遺伝的要因関与の可能性が出てきました。
佐久医療センターでゴーハム病と診断された1名の患者さんが、従来報告されてきた典型的なゴーハム病の症例とはやや異なる臨床的特徴をもつことに気づきました。そして、発症年齢、リンパ管腫の有無、外傷既往の有無などの相違に加えて、患者さんの両親はいとこ婚であったことが明らかになりました。このことから、遺伝子変異等の関与が想定されるため、患者さんと兄弟の血液検体をもとに全エクソン配列解析を行いました。
その結果、ガスダーミンD遺伝子内にホモ接合性の遺伝子変異が同定されました。ガスダーミンDは、炎症性細胞応答のカギを握るタンパク質のひとつです。分子内切断を受けたタンパク質断片が重合して細胞膜に穴をあけることで細胞死を誘導します。ガスダーミンD遺伝子内の変異はアミノ酸置換を伴うものであり、単球・マクロファージ系細胞内におけるガスダーミン D蛋白質が病原体感染などの刺激に反応したカスパーゼによって切断される部位に一致していました。切断されることにより、単球・マクロファージ系細胞における炎症性サイトカイン放出を誘導する細胞死がもたらされることが知られていますが、本症例から採血した単球においてはこの切断が起らないことが実験的に明らかになりました。
これまで、このような遺伝子変異はゲノムワイドな大規模遺伝子多型のデータベースを探索しても、欧米人での登録はありませんでしたが、アジア系人種を元に探索されたデータベースでは0.03%程度の頻度で存在していました。しかし、この変異をホモ接合性に保有する個人はこれまで報告されていなかったため、今回の成果は、そのような変異がヒトにおいて特徴的な骨病変を生じることを初めて見出したことになります。
また、単球・マクロファージ系細胞における感染誘発性の細胞死と炎症性サイトカインの大量放出が起らないことと、骨消失病変形成の因果関係は必ずしも連結できるものではありませんでした。ところが、ごく最近、海外の研究グループが、成熟間近の破骨細胞内においてガスダーミン D蛋白質が2か所で切断されることにより生じた分子断片が破骨細胞の最終分化を抑制することを、遺伝子改変マウスを用いて明らかにしました。この結果は、我々の知見を消失性骨病変形成の原因として裏付けるものであり、ガスダーミン D遺伝子変異に基づく新たな病型のゴーハム病が存在することが初めて示されたといえるそうです。
なお、この成果は、国際科学誌「JBMR-Plus」のオンライン版に6月29日付で掲載されています。