先天性心疾患をもつ女性の出産、適切な妊娠・周産期管理で入院中の死亡や心臓合併症の発生を回避
横浜市立大学は9月6日、国内の急性期病院に入院し、出産した先天性心疾患の女性について、入院中の死亡例はなく、大きな心臓合併症も起きていないことを診断群分類(DPC)データベースの解析によって明らかにしたと発表しました。
この研究成果は、横浜市立大学附属病院循環器内科の仁田学医師(同大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻在籍)、同大学院データサイエンス研究科の金子惇講師らの研究グループによるもので、医学誌「BMC Cardiovascular Disorders」に8月28日付でオンライン掲載されました。
医療の進歩により、かつては救命することが困難であった多くの先天性心疾患児が助かるようになっており、現在では先天性心疾患児の9割以上が成人期に到達すると考えられています。こうした患者さんは成人先天性心疾患と呼ばれています。
成人先天性心疾患の患者数は、増加する一方であるのに対し、専門医や専門医療機関が十分に整備されていないという問題があり、さらには成人期に到達した女性の場合、安全に妊娠・出産することが可能かどうかという問題に直面します。
健常な女性でも妊娠中の循環血液量の増加や、出産時の陣痛やいきみは、心臓への負荷を高めます。先天性心疾患を有する女性の場合、健常女性と比べて心臓の予備能力が低下しており、妊娠・出産に際しては、心不全や不整脈、血栓塞栓症を発症・増悪させる危険が高いと考えられます。
これまでに日本国内では、いくつかの施設から先天性心疾患を有する女性の妊娠や出産に関する有害事象の報告がなされてきましたが、いずれも少数施設の少数例を対象としたもので、国内全体を網羅するような調査は行われていませんでした。そこで、研究グループは、国内の急性期病院の大部分を網羅するデータベースを用い、出産のために急性期病院に入院した先天性心疾患を有する女性の有害事象を調査しました。
今回の研究では、DPCデータベースを利用して2017年4月から2018年3月までの1年間に国内急性期病院に入院・出産した先天性心疾患を有する女性を同定。解析の結果、出産に際しての入院中に死亡例はなく、大きな心臓合併症(補助人工心肺や大動脈内バルーンポンプを使用するような心不全・循環不全、電気的除細動やペースメーカー、静注抗不整脈薬を要する不整脈)は起きていないことが明らかになったそうです。なお、対象となった先天性心疾患の女性は249例で、先天性心疾患の複雑度が中等症〜重症に分類される女性が約40%を占めていました。
また、先天性心疾患の複雑度が高くなるに従い、大学病院で出産する女性の割合が高くなり、先天性心疾患の複雑度が重症に分類される女性の72%は大学病院で出産していることがデータの分析で判明。さらに、入院日数が長期化することも示されたといいます。
これらの研究結果は、国内専門病院によって適切な患者選択が行われており、妊娠・周産期を通じて適切な管理が行われたことを示すもので、先天性心疾患の女性が妊娠を希望する場合には、妊娠前から専門医・専門施設へコンサルトすることが重要であることを示唆しているとのこと。また今回検討できた患者さんは、急性期病院へ入院した女性のみであることから、将来的には全ての先天性心疾患女性の妊娠・出産に関する実態を明らかにする分析を行いたいとしています。
研究グループはプレスリリースにて、「本研究では出産まで辿り着くことのできた女性のみを対象としており、心疾患のために妊娠を断念したり、中絶を余儀なくされたり、あるいは流産となった女性の実態については評価できておらず、今後の研究課題と考えています」と述べています。