理化学研究所、病原体が免疫細胞を活性化するメカニズムを解明
理化学研究所の生命医科学研究センターをはじめとする研究グループは2020年7月22日、免疫機能に重要な役割を担うリンパ球の1種であるT細胞が、病原体を認識し活性化するためのセンサーとなる分子機構を明らかにしたと発表しました。こうした研究結果より、将来的には感染症やがん、自己免疫疾患の治療法開発にも繋がると期待されています。
免疫機能に重要なToll様受容体(TLR)
Toll様受容体(TLR)は細胞の表面に存在し、病原体などを識別し感知する機能を持つ受容体です。免疫システムが病原体を識別するためのセンサーとしてパターン認識受容体の存在が知られ、TLRはそのうちの一種です。TLRの一種であるToll様受容体2(TLR2)は、私たちの身体に備わっている免疫 (自然免疫) だけでなく、一度かかった病気に二度目はかかりづらくなるような免疫 (獲得免疫) にも機能することが報告されています。過去に病原体などの抗原に出会ったことのないT細胞をナイーブT細胞と呼ばれ、抗原と出会い活性化されたT細胞はエフェクターT細胞へと分化していきます。研究チームはこれまでに、ナイーブT細胞はTLRによっては活性化されないのに対し、一方でエフェクターT細胞はTLRによって直接活性化されることを明らかにしてきました。しかし、その詳細なメカニズムは解明されていませんでした。
T細胞の活性化に関わる因子を解明
研究グループはまず、ナイーブT細胞とエフェクターT細胞におけるTLR2で受け取った情報について、その後の細胞内の情報伝達にどのような差があるのかを調べました。その結果、2種のT細胞の違いとして「TIRAP」を発見しました。ナイーブT細胞ではTIRAPの発現が見られませんでした。さらに、TIRAPの後に続く情報伝達経路も明らかになり、エフェクターT細胞でのみ見られる機能活性化経路も解明されました。今回の研究を通じて、T細胞が活性化される仕組みが明らかになりました。こうした結果より感染症やがん、自己免疫疾患に対する新たな治療薬の開発へとつながると期待されています。