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自律神経を介した腸管の炎症抑制機構の解明

慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)の金井隆典教授をはじめとする研究チームは、腸管内の腸内細菌叢情報を脳に伝え、迷走神経反射によって「免疫の司令塔」とも呼ばれる制御性T細胞の産生を制御する機構について世界で初めて明らかにしました。

昨今のライフスタイルや環境変化によって、振興感染症、がん、炎症性腸疾患、うつ病、メタボリックシンドロームなどの病気が増加傾向にあります。こうした疾患の原因として、ライフスタイルの変化によって起こる腸内環境の乱れが関連している可能性が少しずつ言われるようになってきました。しかしまだまだ、腸内環境の変化を脳が認識し疾患が発症するメカニズムについては明らかになっていませんでした。

腸管は消化や吸収を主な働きとしている臓器です。管腔内は消化物などが通る、いわば体の外界であり、消化物や腸内細菌などと絶えず触れ合っています。腸管で産生される非末梢性制御性T細胞(pTreg)の働きにより、炎症反応が過度にならないよう抑えられています。一方で、うつ病や過敏性腸症候群は神経の病気と考えられていましたが、炎症性腸疾患を発症している方の頻度が高いことがわかっており、自律神経と腸管の免疫機能の関連性が示唆されています。しかし双方の詳細な関連は不明のままであり、脳と腸を結ぶ神経回路の存在もわかっていませんでした。

本研究では、腸管内でpTregが作られるために重要とされる抗原提示細胞(APC)が、粘膜固有層と呼ばれる腸管の特定の層にある神経と非常に近い位置にあることを示しました。さらに腸管のAPCは脾臓のAPCとは異なる遺伝子発現のパターンを示すことがわかりました。また、腸炎を発症したマウスの迷走神経を切断すると症状が悪化することが明らかになり、大腸炎を発症したマウスでは末梢臓器から肝臓内迷走神経、節状神経節、延髄孤束核が活性化していることがわかりました。これらの神経の繋がりを解析したところ、「腸→肝臓→脳→腸相関による迷走神経反射」という道筋がpTregの産生と維持に重要であることが明らかになりました。

今回の発見は、うつ病やメタボリックシンドロームなどの、腸内環境の変化が原因と考えられている現代病をはじめ、がん、COVID-19のような感染症の病態解明と治療法開発にも繋がると期待されています。

出典元
慶応義塾大学プレスリリース

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