ぼうこうにょうかんぎゃくりゅう (かぶにょうろのへいそくせいにょうろしっかんによるばあいをのぞく。)膀胱尿管逆流(下部尿路の閉塞性尿路疾患による場合を除く。)Vesicoureteral reflux; VUR
小児慢性疾患分類
- 疾患群2
- 慢性腎疾患
- 大分類18
- 尿路奇形
- 細分類47
- 膀胱尿管逆流(下部尿路の閉塞性尿路疾患による場合を除く。)
病気・治療解説
概要
膀胱尿管移行部の先天的な形成不全や下部尿路通過障害などに起因する逆流防止機構の二次性の破綻により膀胱内の尿が尿管ないし腎孟に逆流する現象である。下部尿路機能異常や排便機能異常が二次的因子として関与することも多い(1, 2)。
病因・病態
年長児におけるVURの発生因子,増悪因子として下部尿路機能異常,特に排尿筋過活動(蓄尿期に起こる不随意的な排尿筋収縮:過活動性膀胱ともよばれる)が密接に関与する。幼児期,学童期のVURの70%に排尿筋過活動を認め,排尿筋過活動陽性例は女子に多く,排尿筋過活動に対して排尿指導とともに抗コリン薬を服用させることにより,gradeIII以上の高度VURも消失しうる(2)。
一方,出生前診断例を含め新生児・乳児期に診断されるVURは圧倒的に男子に多く,年長児以降に診断されるVURとは異なる病態をもつことが示唆されている(3)。新生児・乳児のVURでは,下部尿路の機能的未熟性がVURの病態に関与しており,成長により下部尿路機能が正常化していく過程でVURが自然消失することが期待される(4)。
症状
VUR自体は無症状であるが,有熱性尿路感染を契機にVURが発見されることが多い。小児尿路感染症の30-50%にVURが存在するといわれている(5)。出生前診断された水腎症の精査によりVURが診断される場合もある。小児期に反復性腎孟腎炎がありながら,VURが診断されなかったケースや先天性逆流性腎症が高度な場合には,学校検尿などで蛋白尿を契機にしてVURが診断されることもある。
診断
VURを診断する標準的な画像検査は,排尿時膀胱尿道造影法(voiding cystourethrography:VCUG)である。VURはその程度により,grade I~Vの5段階に重症度分類される。VCUGでは蓄尿時の膀胱形態,排尿時の尿道形態の詳細な観察が可能で,下部尿路機能異常や下部尿路の器質的異常の有無を鑑別する。男児のVURでは,後部尿道弁や尿道リング状狭窄などの器質的尿道異常による続発性VURの可能性を念頭において,VCUGの側面像により尿道を丁寧に観察する。
VURにより腎孟腎炎が発症した場合,腎瘢痕という形で腎障害が残る可能性がある。VURによる腎障害は逆流性腎症とよばれる。腎瘢痕の評価には,99mTc-DMSA(dimercaptosuccinic acid)腎シンチグラフィが有効だが,急性腎盂腎炎後は一過性の集積不良部位が生じるため,永続的な腎瘢痕の有無の評価には検査時期(腎盂腎炎罹患後3~6か月)を考慮した評価を要する。
水腎症など合併する腎尿路奇形は超音波検査,経静脈性腎孟造影,CT,MRIにて診断する。VURが残存している間は半年~1年ごとのVCUGや腎シンチグラフィによる経過観察が必要であり,VURの治癒は2回のVCUGで確認すべきとされている。逆流性腎症の発生頻度は,日本逆流性腎症フォーラム(RN Forum Japan) prospective study groupによると,1歳未満で発見されたVURの64.6%に腎瘢痕を認め,そのうち34.3%は高度腎瘢痕であったと報告されている3)。この頻度は1歳以降で診断されたものでもほぼ同率である。一方,慢性腎不全患者の原因疾患としての逆流性腎症は,北米での報告では5.7%,我が国では5.2%を占めている。
最近,top-down approachの概念のもとに,まずはDMSA腎シンチグラムを用いるようになってきた。つまり,腎シンチグラムで集積欠損を認めたものにかぎVCUGを行うという方針である,この方針では,acute DMSA defect,腎瘢痕,異形成腎のいずれをも伴わないVUR症例は,たとえVURがあっても診断されずに経過観察されることになるが,そのようなVURのほぼ全例が自然改善するか,尿路感染症を再発しながらも腎瘢痕を発生させないと報告されている11,12)。
撮影された画像の評価には,日本逆流性腎症フォーラムから提案されているDMSA腎シンチグラムによる逆流腎障害分類案が参考になる13)。
VURにより腎孟腎炎が発症した場合,腎瘢痕という形で腎障害が残る可能性がある。VURによる腎障害は逆流性腎症とよばれる。99mTc-DMSA投与2時間後の腎摂取率を測定することにより,分腎機能を知ることができる。発熱を伴う尿路感染症に罹患した後は,6カ月以上期間をおいて測定することが重要である14)。 3カ月以内では腎瘢痕には進行しない欠損像が出現するため,病変を過大評価する可能性がある,acute DMSA defectと腎瘢痕には多少の画像的な違いがあり,acute DMSA defectでは集積欠損部の辺縁がトレースできるのが特徴である15)。
治療
VURの治療の最大目標は腎孟腎炎と腎障害(逆流性腎症)の予防であり,この目的を達成するために内科的あるいは外科的治療が選択される。外科的治療として,従来の開放手術に加え,低侵襲な内視鏡的注入療法も施行されている。
VURに対する保存的治療の理論的根拠は,VUR自体は自然消失する可能性のある現象であり,腎孟腎炎さえ起こさなければ腎瘢痕が発生する危険は極めて低いということである。一般に,VUR自然消失率はVUR gradeと相関し,また経過観察期間が長いほど高くなる。抗菌薬予防投与による内科的治療と手術治療を比較すると,腎瘢痕の発生頻度は両者で差がないことが報告されている。
このように,内科的治療と手術治療では腎障害の予防という治療の最大目標におけるoutcomeには有意差がないが,腎孟腎炎は腎障害の最大のリスクであり,breakthrough UTI(抗菌薬予防投与下での尿路感染)があった内科的治療例に対しては手術治療が考慮される。また年長児以降の高度VURは自然消失が期待しにくい事実もあり,持続する高度のVURは手術適応とする意見が多い。gradeIII~Vの高度VURでは,DMSA腎シンチグラフィにて腎瘢痕を認める例は腎瘢痕のない例に比べてその後のbreakthrough UTIの頻度が圧倒的に高いことが報告されている(60%対6%),したがって,VUR診断時の腎瘢痕の有無はその後の治療法の選択に影響する重要な要素である。
一方,VURに対する保存的治療は,抗菌薬予防投与とVURに悪影響を与える因子の是正からなる。排尿筋過活動(過活動膀胱)を伴う幼児期以降のVURに対しては,頻回排尿・時間排尿(2時間ごとの定時排尿)を徹底させるとともに,抗コリン薬により排尿筋過活動のコントロールをはかる。便秘を伴う例では,抗コリン薬の使用により便秘が悪化する可能性があるので,食事指導や緩下薬を適宜使用する。
抗菌薬の少量,長期予防投与は,有熱性UTIの頻度を減らすという報告がある一方で(6, 7),コクランレビューでは,耐性菌の出現の問題を指摘しており,有用性は少ないと結論している(8, 9)。さらに,最近行われた抗菌薬予防投与の効果を比較したランダム化比較試験(RIVUR臨床試験)でも,抗菌薬の予防投与は有熱性UTIの頻度は減らすが,腎瘢痕を生じる頻度は長期的には非投与群と差がなかったとしている(10)。また,抗菌薬をいつまで続けるかについても一定の見解はないが,排尿習慣が確立した小児で,正常な排尿パターンがあり,尿路感染の既往が少ない場合には,抗菌薬予防投与を中止しても問題は少ない。
参考文献
1) Koff SA, Wagner TT, Jayanthi VR. The relationship among dysfunctional elimination syndromes, primary vesicoureteral reflux and urinary tract infections in children. J Urol 160(3 Pt 2):1019-22, 1998
2) 柿崎秀宏, 守屋仁彦, 田中 博, 他.小児原発性膀胱尿管逆流(VUR)の病態. 臨床泌尿器科59:535-544, 2005
3) Nakai H, Kakizaki H, Konda R, et al; Prospective Study Committee of Reflux Nephropathy Forum, Japan. Clinical characteristics of primary vesicoureteral reflux in infants: multicenter retrospective study in Japan. J Urol 169:309-12, 2003
4) Yeung CK, Godley ML, Dhillon HK, et al. Urodynamic patterns in infants with normal lower urinary tracts or primary vesico-ureteric reflux. Br J Urol 81:461-7
5) Levitt SB, Weiss RA: Vesicoureteral reflux: naturalhistory, classification and reflux nephropachy.In: Clinical Pediatric Urology(ed by Kelalis PP, et al), p355, Saunders, Philadelphia, 1985
6) Roussey-Kesler G, Gadjos V, Idres N, et al Antibiotic prophylaxis for the prevention of recurrent urinary tract infection in children with low grade vesicoureteral reflux: results from a prospective randomized study. J Urol 179:674-9, 2008
7) Craig JC, Simpson JM, Williams GJ, et al; Prevention of Recurrent Urinary Tract Infection in Children with Vesicoureteric Reflux and Normal Renal Tracts (PRIVENT) Investigators. Antibiotic prophylaxis and recurrent urinary tract infection in children. N Engl J Med 361:1748-59, 2009
8) Williams G, Craig JC. Long-term antibiotics for preventing recurrent urinary tract infection in children. Cochrane Database Syst Rev. 2011 (3):CD001534
9) Nagler EV, Williams G, Hodson EM, Craig JC. Interventions for primary vesicoureteric reflux. Cochrane Database Syst Rev. 2011;(6):CD001532
10) Hoberman A, Greenfield SP, Mattoo TK, et al. RIVUR Trial Investigators. Antimicrobial prophylaxis for children with vesicoureteral reflux. N Engl J Med 370:2367-2376, 2014
11)Hansson S, et al: Dimercapto-succinic acid sintigraphy instead of voiding cystourethrography for infants with urinary tract infection. J Urol172:1071-1074,2004
12)Preda I,et al:Normal dimercaptosuccinic acid sintigraphy makes voiding cystourethrography unnecessary after urinary tract infection. J Pediatr161:581-584, 2007.
13)坂井清英ほか:DMSA腎シンチグラムによるVURの腎障害の評価と落とし穴,日小児泌会誌18(1):16-22,2009
14)Jakobsson B, et al:Renal scarring after acute pyelonephritis. Arch Dis Child 70:111, 1994.
15)中井秀郎: VURに対する保存的治療. 日本泌尿器科学会, 卒後教育プログラムテキスト, 第15巻1号,p381-389,2010.
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