ちろしんすいさんかこうそけっそんしょうチロシン水酸化酵素欠損症Tyrosine hydroxylase deficiency
小児慢性疾患分類
- 疾患群8
- 先天性代謝異常
- 大分類11
- 神経伝達物質異常症
- 細分類123
- チロシン水酸化酵素欠損症
病気・治療解説
概要
チロシン水酸化酵素(TH)欠損症は、チロシンをL-ドーパに水酸化する酵素の異常により、神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリンなどのカテコールアミンの全般の合成が低下する常染色体劣性遺伝形式をとる先天代謝異常症である1)。脳内では進行性の中枢神経障害が発症し、L-DOPAに反応する例もあるが、進行性の脳症を呈する例が主体を占める。
疫学
きわめてまれな遺伝性疾患で世界の報告でも50例に満たない2)。過去に我が国にも症例報告が存在するが、2009年度に施行された厚生労働省による全国調査でも患者は見いだされなかった3)。
病因
11p15.5に存在するTH遺伝子(TH)の先天的な変異によりTH活性の低下をきたし、L-ドーパの低下を招き、神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリンなどのカテコールアミン全般の合成が低下する。変異部位により、ドーパ反応性ジストニアの病型をとるものと、進行性脳症の病型をとるものとに分かれるがその原因の解明はできていない。
症状
発症時期と症状の程度には大きな幅があるが、通常日内変動を認めない。発症は進行性脳症の症例で早く、生後3~6カ月に運動寡少、躯幹筋緊張低下、仮面様顔貌で発症し、これに腱反射亢進、錐体路徴候、注視発症、眼瞼下垂(交感神経作動点眼薬で改善)、縮瞳を伴う。脳内では進行性の中枢神経障害が発症する。ドーパ反応性ジストニア(DRD)の病像を呈する症例もあるが、ノルアドレナリン生成障害を併発、進行性の脳症を呈する例が主体を占める。
診断
診断は髄液のHVA、MHPGの減少、フェニルアラニン、プテリジンおよびセロトニン代謝が正常なことで可能である3)。また血中プロラクチン値が著明に上昇する3)。遺伝子診断が有効である。
治療
L-DOPAの投与で改善することもあるが、ノルエピネフリンの低下を併発する場合治療は困難である。
予後
L-DOPAに反応する症例は予後は良好である。しかしノルアドレナリン生成障害を併発する例では予後不良である。
成人期以降
神経伝達物質の補充療法は生涯必要であり数日の退薬で死亡することがあるため、できるだけ一人暮らしはさけることを本人と家族に周知する必要がある。
参考文献
1) Hyland K, et al: Tyrosine hydroxylase deficiency. In The Merbolic & Molecular Basis of Inherited Disease. (ed by Scriver et al) MacGraw-Hill, New York, 2001;1757-1759.
2) Willemsen MA, et al: Tyrosine hydroxylase deficiency: a treatable disorder of brain catecholamine biosynthesis. Brain 2010; 133:1810-1822,
3) 新宅治夫:小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究報告、厚生労働科学研究補助金 難治性疾患克服研究事業 平成21年度総括・分担研究報告書、大阪、平成22年3月;1-83
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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