まんせいにょうさいかんかんしつせいじんえん (にょうろきけいがげんいんのものをのぞく。)慢性尿細管間質性腎炎(尿路奇形が原因のものを除く。)Tubulointerstitial nephritis; TIN
小児慢性疾患分類
- 疾患群2
- 慢性腎疾患
- 大分類3
- 慢性尿細管間質性腎炎(尿路奇形が原因のものを除く。)
- 細分類23
- 慢性尿細管間質性腎炎(尿路奇形が原因のものを除く。)
病気・治療解説
概要
尿細管間質性腎炎(TIN)は病理組織学的概念で,尿細管および間質の炎症を主体とした雑多な形態学的変化が認められる腎病変の総称であり,多彩で広範な病因,病態,臨床的所見を呈する(1, 2)。病理組織学的に,浮腫や細胞浸潤などの急性病変を主体とする急性尿細管間質性腎炎と,間質線維化,尿細管の萎縮などの慢性変化を主体とする慢性尿細管間質性腎炎に分類される。しかし,急性でもさまざまな程度に線維化病変を伴う場合があり,また慢性でも炎症細胞浸潤を認めるため,急性・慢性の鑑別は病理組織所見のみでは明確でない場合もある。最近では病理組織学的所見と臨床経過を考慮して,急性あるいは慢性と診断される傾向にある(2)。基礎疾患や誘因から分類する考え方がWHOの分類が広く用いられる(表)(3)。
病因・病態
原因は感染症,薬剤性,免疫異常,尿路閉塞,膀胱尿管逆流現象,重金属,中毒,虚血,代謝異常,遺伝性,腫瘍,糸球体・血管性と多彩であり,病因が不明であることも少なくない(表)。
病因が多彩であるため,発症機序,病態は病因により異なるものと推測される。主な発症機序としては原因物質の直接的侵襲,免疫を介した機序などが想定されているが,実際にはさまざまな機序が複合的に関与しているものと考えられる。
シスプラチン,アミノグリコシド系抗菌薬などのように,ある一定量以上の薬剤を使用すると,個体の免疫学的特異性とは関係なく,用量依存的に惹起される障害を中毒性尿細管間質性腎炎という。アミノグリコシドは糸球体で濾過された後近位尿細管に取り込まれ,その細胞内濃度は血中濃度の数倍に濃縮され,ホスホリパーゼの活性を抑制し,最終的には細胞傷害を来すと考えられている。
小児期の慢性尿細管間質性腎炎の原因としては,①重度の閉塞性腎症,あるいは膀胱尿管逆流(尿路感染が増悪因子となる)に続発するもの,②シクロスポリンの長期使用によるもの,が特に重要である。小児期の腎孟腎炎発症例では,膀胱尿管逆流現象などの泌尿器系の異常を伴うことが多く,腎孟腎炎を繰り返すことも多い。尿路系の内圧が高まることにより尿細管管腔は拡張し,腎孟腎炎の合併により尿細管間質障害は増悪し線維化につながる。腎組織は,間質へのリンパ球や単球などの細胞浸潤と尿細管壊死・萎縮などが認められ,慢性化した病変では尿細管の拡張や間質の線維化が著明になる。
シクロスポリンは,長期使用により血管糸球体,尿細管間質ともに障害される。小児科領域においては,特にステロイド依存性ネフローゼ症候群やステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の治療において使用頻度が増し,その腎障害(シクロスポリン腎症)が問題となっている。
臨床症状
慢性尿細管間質性腎炎では,ほとんどの症例は全く無症状で経過し,健診など偶然施行された血液検査で慢性腎不全として見つかることも多い。また慢性腎不全が進行すれば,全身倦怠感,食欲不振,浮腫,呼吸困難などの尿毒症症状を呈する。尿細管機能障害に基づく症状を呈することがあるが,尿細管・間質の障害部位は症例ごとに異なり,近位尿細管,遠位尿細管,腎髄質集合管の障害が種々の程度に重複することが多い。また低K血症による筋力低下などの電解質異常,酸塩基平衡異常による症状を呈することもあるが,一般的には多尿,夜間頻尿,口渇などの尿濃縮障害に基づく症状を認めることが多い。
診断
臨床所見,画像検査および腎生検により診断する。特に特発性TINの診断には腎生検が不可欠である。ただし,慢性特発性TINでは,多くの症例が無症状で経過し健診などで慢性腎不全として見つかることも多い。尿細管性タンパク尿,尿細管機能異常を伴う腎機能障害を認めた場合にTINを想起することが診断の第一歩である。
1. 臨床・検査所見
血液検査で比較的急速に上昇する血清Cr,BUN,薬剤性では好酸球増加,血清IgE増加がみられることが多い。
尿検査では1g/日未満の蛋白尿(NSAIDsではネフローゼ症候群を呈することもある),尿β2MG,NAG排泄の増加が特徴的である。顕微鏡学的血尿はあるが肉眼的血尿は少なく,また白血球尿があるのに尿培養陰性である。薬剤性では尿中好酸球増加もみられるが,特異性はそれほど高くない。
超音波検査では高輝度の腎腫大を認め,Gaシンチグラフィは疾患初期に有用で,両腎への異常集積は診断感度が高い。
慢性化すれば濃縮尿が形成できず多尿をきたし,尿酸性化能の低下,Fanconi症候群様所見(腎性糖尿,アミノ酸尿,%TRP低下など)もみられるようになり徐々に腎機能が低下してくる。
原因薬物の同定には薬物リンパ球刺激試験(DLST)が有用であるが,絶対的なものではない。
原因と考えられる薬剤がある場合,その薬剤を中止した後に腎機能が回復すれば,腎生検を施行しなくても薬剤性のTINと診断してよい。
2. 腎生検
確定診断には腎生検による病理組織診断が必須である.急性TINでは,尿細管の萎縮や消失,間質の著明な拡大,リンパ球主体の軽度の小円形細胞浸潤と浮腫などの急性炎症が特徴であるのに対し,慢性TINは,慢性の経過で腎臓間質にリンパ球を主体とする細胞浸潤や線維化がみられ,尿細管が萎縮,消失し,二次的に糸球体硬化が出現してくる。これらの病理学的変化は原因,罹患時期により質・量ともに大きく変化する。
治療・予後
■治療
急性,慢性TINとも,第一に原因の除去,基礎疾患の治療が重要である。薬剤性の場合には疑わしい薬剤を中止する。急性尿細管間質性腎炎では原因の除去により速やかに腎機能の回復を認めることが多い。数日後にも腎機能が回復しない場合には,間質の線維化が起きてくる前に副腎皮質ステロイドの投与を開始する,副腎皮質ステロイド療法は有効とする報告が多いが,比較対照試験がなく,投与量など治療法は確立していない。副腎皮質ステロイドの投与を行っても腎機能の回復を認めない場合には,シクロホスファミド2mg/kg体重/日を追加することも提唱されている(4)。軽症,中等症では上記の治療法で対処できるが,重症例では一時的に血液浄化療法を必要とすることもある。
慢性TINでも同様に原因の除去,原疾患の治療が基本であるが,間質の線維化に対する根本的治療法は確立していない。細胞浸潤が比較的多い症例では副腎皮質ステロイドを使用するが,急性尿細管間質性腎炎と比べると効果は期待できない。慢性腎不全の進行に対する一般的治療法が中心となる。
小児のステロイド依存性ネフローゼ症候群やステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の治療として用いられるシクロスポリンによる腎障害(シクロスポリン腎症)は,小児の慢性TINの重要な原因の一つである。腎障害の予防のために,シクロスポリンの使用期問は2年間を目安とし,少量~中等量の投与が推奨される。長期のシクロスポリン投与により生じた腎病変のうち,薬物の中止により血管」病変は軽快するが,尿細管間質性腎炎は不変であったと報告されており(5),長期使用にあたっては十分な注意が必要である。
表 WHO尿細管間質血管病変分類改訂版(3)
参考文献
1) 重松秀一ほか監訳: 腎疾患の病理アトラスー尿細管間質疾患と血管疾患のWHO分類, p3-11, 東京医学社, 2005
2) Rastegar A, Kashgarian M. The clinical spectrum of tubulointerstitial nephritis.Kidney Int 54:313-27, 1998
3) The World Health Organization Collaborating Center for the Histological Classification of Renal Diseases: Classification and atlas of tubulo-interstitial diseases. In:Renal disease (ed by Churg J,et al), pp1-221, Igaku-shoin,Tokyo, 1985
4) Neilson EG. Pathogenesis and therapy of interstitial nephritis. Kidney Int 35:1257-1270, 1989
5) Hamahira K, Iijima K, Tanaka R, et al. Recovery from cyclosporine-associated arteriolopathy in childhood nephrotic syndrome. Pediatr Nephro 16:723-727, 2001
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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