きけいしゅ (ずがいないおよびせきちゅうかんないにかぎる。)奇形腫(頭蓋内及び脊柱管内に限る。)Teratoma of the central nervous system
小児慢性疾患分類
- 疾患群1
- 悪性新生物群
- 大分類6
- 中枢神経系腫瘍
- 細分類89
- 奇形腫(頭蓋内及び脊柱管内に限る。)
病気・治療解説
概要
奇形腫は、頭蓋内胚細胞腫瘍(germ cell tumor)の1種であり、2007年のWHO病理分類では、さらに
① 成熟奇形腫(mature teratoma)
② 未成熟奇形腫(immature teratoma)
③ 悪性転化を伴う奇形腫(teratoma with malignant transformation)
に分類される。
三胚葉の成分から構成される腫瘍であるが、それぞれの成分がすべて成熟分化しているものは成熟奇形腫、全体または一部が未熟な形態を示すものは未成熟奇形腫、成熟奇形腫の一部が悪性の組織像を呈する場合は悪性転化を伴う奇形腫と診断される。
これらの腫瘍は、単独で発症する場合もあるが、奇形腫以外の他の胚細胞腫瘍と混在し、混合性胚細胞腫瘍として発症する場合もある。
脳・脊髄以外の奇形腫と同様の病理組織所見をとるが、発症部位などの相違から、診断・治療法が異なり、予後も異なる。
乳幼児での発症は、多くは先天性脳腫瘍であり成熟奇形腫が多い。年長児、成人ではほとんどが混合性胚細胞腫瘍の一部として発症する。
疫学
我が国の脳腫瘍統計では、奇形腫は、teratomaとmalignant teratomaに分類されているが、それぞれ脳腫瘍の0.2%の頻度である。
症状
発生部位により症状は異なる。腫瘍の発症部位により異なった症状が出現する。
下垂体機能低下を認めることが多く、鞍上部腫瘍では60〜90%の患者で尿崩症を発症する。
松果体部腫瘍では、画像上鞍上部の病変を認めなくても尿崩症を発症していることがある。
鞍上部腫瘍では視機能低下、成長ホルモン欠乏、思春期早発を認めることがある。
松果体部腫瘍では、中脳水道を閉塞し、水頭症をきたし、頭痛・嘔吐、意識障害などの症状を呈する。
更に、蓋板を圧迫してパリノーParinaud症候群(輻輳反射麻痺による偽Argyll-Robertson瞳孔または対光反射の減退を伴う両側性上方注視麻痺)を呈する。
基底核腫瘍では、大脳高次機能の低下、錐体路障害による片麻痺、知的機能の障害などを生じる。
頭蓋内圧亢進症状、視機能障害を初発症状とする場合には診断までの時間が短いが、食思不振、精神症状、行動異常、夜尿症などの非特異的症状で発症する場合、診断まで時間がかかることが多い。
診断
症状や診察所見から腫瘍の存在が疑われ、CT、MRI検査によって腫瘍性病変が描出されて、診断の契機となる。
正中線上の石灰化、軟部組織、嚢胞、脂肪の混在する腫瘍であり、一般的には石灰化や脂肪を含む不均一な腫瘍として描出されることが多い。しかし、画像所見のみからの鑑別診断は困難である。
鞍上部の小病変では、ランゲルハンス細胞組織球症、サルコイドーシスとの鑑別が必要であり、より大きな病変では、低悪性度神経膠腫との鑑別が必要である。
松果体部腫瘍は殆どが胚細胞腫瘍であるが、低悪性度神経膠腫、テント上未分化原始外胚葉腫瘍(sPNET),松果体細胞腫との鑑別が必要である。
悪性混合性胚細胞腫瘍は、播種の可能性が高いため、治療前に、脳および脊髄のMRI検査によりその有無を検索する。
腫瘍マーカーでは、卵黄嚢腫瘍を含む場合にはAFPが高値、絨毛癌を含む場合には、β-HCGが高値を示し、奇形腫を含む場合は、AFPが軽度上昇することがある。
確定診断は、手術あるいは生検によって採取された腫瘍の病理組織診断によって行なわれる。
腫瘍採取の方法によっては、腫瘍全体を反映しないために、正しい診断ができない場合もあり注意を要する。
治療と予後
成熟奇形腫は、成熟分化した三胚葉成分から構成される組織学的には良性の腫瘍であるが、過誤腫(hamartoma)とは異なり増殖力を保持した新生物であり、治療が必要である。
実際には、成熟奇形腫と診断されるのは、先天性脳腫瘍である乳幼児例であり、年長児や成人のほとんどの例は、成熟奇形腫と未成熟奇形腫、あるいはさらに他の胚細胞腫瘍を含んだ混合性腫瘍として診断される。
成熟奇形腫は、完全な摘出が可能な場合は、手術のみで治癒が得られるが、残存した場合には、再増大する可能性が高い。
摘出困難な場合には、放射線治療が用いられる場合もあるが、その効果は確定したものではなく、手術を繰り返すようになる場合が多い。
未成熟奇形腫および悪性転化をともなう奇形腫は、悪性腫瘍として、胚細胞腫瘍におけるリスク分類に従って治療が行なわれる。
亜全摘以上の摘出が可能な場合、局所放射線治療を併用することにより10年生存率は75%と良好であるが、近年は化学療法を併用した治療が行なわれる場合が多い。
治療後には、内分泌障害などの合併症による死亡などもあり、長期的なフォローアップが必要である。
参考文献
1) 神宮寺伸哉、藤井幸彦:奇形腫、別冊日本臨床 新領域別症候群No.28, 369-373, 2014.
2) 柳澤隆昭:混合性胚細胞腫瘍、別冊日本臨床 新領域別症候群No.28, 374-378, 2014.
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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