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しがどくそさんせいちょうかんしゅっけつせいびょうげんだいちょうきんによるようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん
志賀毒素産生腸管出血性病原大腸菌による溶血性尿毒症症候群STEC-HUS

小児慢性疾患分類

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病気・治療解説

定義

志賀毒素(Shiga toxin: STX,ベロ毒素 Vero toxin: VTとも呼ばれる)を産生する腸管出血性大腸菌( enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)による腸炎に引き続き,TMAの3主徴(標的障害臓器は腎)がみられるものがSTEC-HUSと定義される.

病因

EHECの産生するSTXにはアミノ酸配列が異なるSTX1(VT1)とSTX2(VT2)の2種類があり, EHECはSTX1またはSTX2のどちらか,あるいは両方を産生する.STXの一部が細胞内に取り込まれると,リボソームに結合しタンパク合成が阻害され,細胞毒性や細胞死を起こす.STXの受容体は赤血球膜,白血球,血管内皮(特に腎臓,脳,消化管),尿細管に多く発現しているため腎臓が障害されやすい.

疫学

HUSの約90%がSTEC-HUSであるとされる.国立感染症研究所感染症情報センターが発表した2008年~2011年の本邦での発症状況によると,STEC-HUS患者数は242(HUS総数は371)であった.起因菌が分離されたHUS患者では血清型O157が主たる起因菌である.本邦ではその他にO121,O111,O26,O145等が検出されている.

臨床症状

EHECを経口摂取すると一般に3~7日の潜伏期を経て,腹痛,水様性下痢を発症し,次第に血便を排せつする.血便は7~14日間続く.下痢の出現後に溶血性貧血,血小板減少,急性腎傷害(急性腎不全)を3主徴とするHUSを引き起こす.急性脳症(けいれん,意識障害)を合併することがある.

診断

(小児慢性特定疾病の対象疾患ではありません)

治療

小児のEHEC感染患者に対する治療は保存的治療が中心である.
EHEC感染に対する抗菌薬投与でHUS発症を予防できるとはいう結論はでていない.止痢薬はHUS発症の危険因子であるため投与しないことが推奨される.
HUS発症前のEHEC感染症患者に対して,等張性輸液製剤を積極的に投与する事は,急性腎傷害(乏・無尿)発症の予防効果と透析療法の回避につながるため,勧められる.ただし,HUS発症後の乏・無尿期の過剰な輸液による高血圧,肺水腫,電解質異常を回避するため,尿量+不感蒸泄量+便等による水分喪失を補充する最低限の輸液のみを基本とする.
輸血に関しては,Hb 6.0 g/dL以下の貧血時に濃厚赤血球投与が推奨される.なお,HUS発症早期からのエリスロポエチンの投与は赤血球輸血を減らしうるとされ,赤血球輸血を減らす目的でHUS発症早期からのエリスロポエチンの投与を検討する.HUS患者に対する血小板の投与は微小血栓の形成を促進させる可能性があるため,原則として勧められない.ただし,出血傾向(血便を除く)や大量出血時にはその限りではない.
HUSでは急性期に高血圧を高頻度に合併するため,速やかに血圧の適正化を図る.急性期高血圧に対する第一選択薬として,カルシウム拮抗薬を用いる.
また,HUS発症時から,血清Cr値が年齢性別毎の中央値の2倍以上となった患者は早期に透析療法を考慮する必要がある.なお,HUSの急性腎傷害の増悪を阻止する上で,血漿交換療法の有効性は認められない.
明らかなDICを合併していないHUSにおいて,血栓形成阻止を目的とした抗血栓療法の有効性は明らかでないため,基本的には勧められない.DICを合併する場合の治療に関しては「(4)DIC」の項を参照されたい.
EHECによる脳症の治療の基本は,支持療法である.脳浮腫とけいれんの治療を目的とした,全身管理と中枢神経症状の治療(痙攣治療,頭蓋内圧降下療法)を行う.

予後

HUSの急性期死亡率は欧米では2~6%,わが国では1.5%である.死亡の88%は急性期に生じる.
HUS患者の腎後遺症は,アルブミン尿,蛋白尿,腎機能低下,高血圧である.HUS患者の約20~40%が慢性腎臓病(CKD)に移行する.CKDは末期腎不全や心血管合併症の危険因子である.
HUS患者では,消化管後遺症(胆石,慢性膵炎,大腸狭窄等),糖尿病,神経学的後遺症,認知行動障害,循環器系後遺症等の腎機能障害以外の障害が残ることがある.

参考文献

溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン
Karmali MA, et al. The association between idiopathic hemolytic uremic syndrome and infection by verotoxin-producing Escherichia coli. J Infect Dis. 1985; 151: 775-782.

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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